第4話
――うっ、うわぁ。大胆。
思い返してみると、確かにゲームの中でこういった『キスのイベント』は攻略キャラクター別にあった。
確か、ゲームの中でもその場面は重要とされていて『スチル』という一枚のイラストが表示され、それはとても幻想的に描かれていた。
「……」
しかし、それはあくまで「自分がプレイヤー」として遊んでいるからこそ楽しめるモノだと言う事を改めての実感した。なぜなら……。
――なんか、のぞき見している様にしか見えない。
しかも、隣にはグレンもいる。この何とも言えない「気まずい」雰囲気は……あまり体験したいモノではない。
――まっ、まぁ。前世でも高校生になって少し羽目を外してしまう子はいたし、そういった場面に偶然遭遇しちゃう事もあったし、今回もその時も『不可抗力』って言うモノだと思うけど……。
正直、そういった場面を目にしても私はあまり気にせず「大胆だなぁ」くらいの感想を抱かなかった。
しかし、実際に自分がゲームでプレイしていた場面を客観的に見てしまうと……今の隠れて見ている状況も相まって、何とも言えない気持ちになってしまう。
「……」
しかも、ここは学校を出てすぐのベンチがある場所。
言ってしまえばここは「誰が通るか分からない」というちょっとしたスリルもある場所である。
――まぁ、だからこそ思うところはあるのかも知れないけれどね。
現にこうして私たちに見られている。
「!」
――あ。そうだ、グレンは……。
私はふと隣にいるグレンの様子が気になりチラッと見ると……。
「!」
グレンは「驚く」という事も「照れる」という事もせずに、ただただジーッと二人の様子を見つめているその様子はむしろ……。
――おっ、怒っている?
でも、正直なところ。グレンの表情は読み取れず、その「無表情」な姿は……どことなく「怒り」の様なモノを感じた。
「……」
――グッ、グレンって。こういった時「照れる」とかじゃなくて「嫌悪感」を感じるタイプだったのね。
でも、そういう人がいてもおかしくはない話だ。
それこそ、ゲームの内容を知っている私ですら、こうして自分の目で見て、驚いてしまったのだから、同じ貴族のグレンだって色々と思うところはあるのは確かだろう。
――それに、現宰相の息子と男爵家の令嬢だし。
要するにコレは完全に『スクープ』で、お茶会で話を出せば、それだけで話題を接見できてしまうほどのモノだ。
――まぁ、グレンはそういった「下世話な話」には興味もなさそうね。この反応を見た限り。
そもそも、この貴族社会では誰でも恋愛が自由に出来るワケではない。
それこそ、家の利益の為に……と、ゲームのゲーテ王子やカナリアの様にお互いの利益の為に幼い頃、既に「婚約者が決められている」と言う場合もあるくらいだ。
――それを考えると……。
グレンのこの反応はむしろ「普通」なのかも知れない。
自分の事よりも家の事を優先させるのであれば、こうした「自分勝手」は許されないと考えるからだ。
――でもまぁ。一応、ゲームの攻略キャラクターたちの中で婚約者がいるのは、ゲーテ王子だけだったけれど。
しかし「婚約者がいないから大丈夫!」という話でもない。
――そもそも、男爵家の令嬢が攻略キャラクターと仲良くするのも本来ならおこがましい位なんだよね。
それはカナリアになって、この世界の「貴族」について色々と学んで知った「事実」である。
本当に、こうした『シンデレラストーリー』というモノは「ゲームだからこそ成り立つモノ」だという事を実感した。
「――リア様。カナリア様」
「! なっ、何?」
――びっ、びっくりした!
突然、小さなイケメンボイスで呼ばれ、私は思わずのけぞってしまった。
――グッ、グレンって……実はかなりのイケメンボイスなのよね。
それこそ「なんで攻略キャラクターじゃないんだろう?」と不思議になってしまうほどである。
――いつも穏やかな笑顔だし、優しいし……。でも。
自分がカナリアだからこそ思うのは「攻略キャラクターじゃなくて良かったかも」という気持ちだった。
――だって、もし攻略キャラクターだったら。
こうして仲良くなる事もなかっただろう。
「カナリア様? 大丈夫ですか?」
「だっ、大丈夫」
「そうですか。それより、このままここにいても埒があきませんので……」
「……そうね」
そう言いつつ、グレンは「静かにこちらから抜けましょう」と目線と小声で合図をする。
確かに、このままここにいても埒があかない。だったらここでバレないように立ち去るべきだろう。
「分かった」
頷きながらそう言うと、グレンはいつもの様な穏やかな笑顔を見せ、私は思わず「良かった。あまり怒っているワケじゃないみたい」とホッとしてしまったのだった。




