第2話
「……」
そんな会話を二人がしているのを見ていた人物がここに一人。そう、この部屋の主であるはずの『カナリア・カーヴァンク』である。
――どっ、どういう状況なの? コレは一体。
その日。私はいつもの様に授業の後、寮へと戻って来た……はずだ。
しかし、いつもであれば私がノックをする前にディーンが「お帰りなさいませ」と扉の前で街換え舞えているのに、今日はそれがなかった。
――いや、そもそもそんなタイミングバッチリで待ち構えているのもおかしいんだけどね。
「……」
そんなワケで、少し違和感を覚えつつノックをしようとしたところで、ディーンの声と聞き覚えのある女性の声が聞こえて、思わずその手を止めた。
――でっ、でも。まさか、アーリアだなんて。
思い返してみると、確かにいつもであれば、アーリアは昼休みだけでなく放課後も私と一緒に図書室で勉強をしてから帰っていた。
しかし、今日は「用事があるから」と申し訳なさそうに昼休みに私に対して断りの連絡をしてきていた。
――あの時は「そりゃあ、アーリアにも用事はあるわよね」なんて思っていたけれど。
しかし、その用事がまさか「ディーンに話しに来る事」だとは……さすがの私も想定していなかった。
「……」
ただ、どうやらディーンはそもそも「聞かれている」とは思っていなかったらしく、いつもは張っているはずの『結界』を張っていなかった。
それを良い事に、内心「悪い」と思いつつ思わず聞き耳を立ててしまった私に耳に聞こえていたのは……驚きの「アーリアが天使」という事実だった。
「!」
そして、その事を耳にした瞬間。
「……」
私はその驚愕の内容に驚いてしまったのだが、そこで大声を出したり大きな音を出したり……なんて事はせず、音を立てない様に急いでその場を離れた――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……」
そして、今に至っている――。
「でも、まさか」
正直、まさかの事実に気が動転してしまった……という事は否定しない。
――でっ、でも。
思い返してみると、あのゲームで『アーリア』という隣国の令嬢は出て来ていなかったのは確かだ。
――だから「あくまでこの世界は世界観が似ているだけで、ストーリーは関係ないんだ」って思いたかったけれど。
しかし、その彼女が「天使」というのであれば……話は変わってくる。
――でも……つまり、あの子はこの世界では『イレギュラー』な存在って事になるのよね。
確か、ゲームの中でのカナリアは、学校ではいつも何人かの貴族令嬢を従えていたはずだ。
――でも、最終的にはその令嬢たちにも見捨てられるのよね。
家族だけでなく、友人だと思っていた人たちにも捨てられる……。
――いえ、そもそも「友人」と思っていたのはカナリアだけ……だったのかも知れないわね。
基本的に「貴族」というのは「己の利益」が一番大事だ。そのために「他人を切る」のはむしろ当たり前だった。
――本当に「金の切れ目が縁の切れ目」ってヤツなのね。
それを考えると、少し寂しい。
でも、そうなってしまったのも「自業自得」と言われてしまうとそれまでの話である。
しかも、実はその「罪」とも言える主人公に行った「イジメ」の全てにカナリアが関わったワケではない。
――多分、取り巻きの令嬢たちがカナリアに内緒で勝手にしたモノもあるでしょうね。
要するに「そうした方が何かと都合が良い」という理由の「なすりつけ」である。
――本当に、カナリアって不憫よね。
しかし、今の私にそんなあからさまな「下心」を持って近づいて来るような物好きはいない。
――最初でこそ「公爵令嬢とお近づきになりたい」って言う『下心』が見え見えのクラスメイトもいたけれど。
そんな相手は最初から「無視」とまでは言わないけれど、それ相応に対処させてもらった。その結果、今ではコソコソと「根暗」って言われているらしく、周囲で浮いている状態で出来た「友人」がアーリアだった。
「……あれ?」
「おや?」
慌てて寮を出て来てしまい、適当に時間を潰そうとフラフラしている内に、どうやら学校に戻って来てしまった様だ。
「グッ、グレン」
「カナリア様、どうされました? 確か、つい先程帰ったはずでは?」
「あっ、ああ。うん、別に何かあってってワケじゃないんだけど」
「忘れ物ですか?」
「いっ、いや。そうじゃなくて……」
――きっ、気まずい。
グレンとはついさっきまで一緒に図書室で勉強をしていた。
だからこそ、グレンは学校に戻って来た私を心配してくれているのだろうという事はすぐに分かった。
――でも、どうしよう。さすがにさっきの話をそのまま言うのも……。そもそも「天使」だの「ゲーム」だのの説明をするワケにもいかないし。
「……ん?」
そんな時、私はふと視線を奥に移すと……。
――あれって……まさか!
「隠れて!」
「え」
遠くから見えた人影に、私思わずグレンの腕を引いて茂みに隠れるように促した。
「え」
でも当のグレンは状況が分かっていなくて、ただただ困惑していたみたいだけど。




