第5話
「……」
「沈黙って事は、肯定と取っていいのかしら?」
「ご想像にお任せします」
「そう? じゃあ、そうさせてもらうわ」
苦し紛れな返答になってしまったのは、ディーン自身よく分かっている。
しかし、ディーンが答えるのと、この世界の事をよく知っているカナリアが肯定するのとでは、話が随分と変わってきてしまう様に思えてならなかった。
――多分、お嬢様は私以上にこの世界の事をよく知っているはず。
だからなのか、お嬢様はこれから自分の身に起きるであろう事も察しが付いている様に感じる事がある。
「――それはどうかしら」
「……人の思考を勝手に読まないで下さい」
「ふん、読むまでもないわ。あなた、意外に分かりやすいのよ。自覚ないでしょうけど」
「……」
アーリア。いや、彼女は「思考を読む事」が出来る。
――ですが、彼女がそう言うという事は……本当に分かりやすいんですね。私は。
自分ではそのつもりもなく、そもそも必要最小限の付き合いしかしてこなかったため「自覚」というモノがなかった。
「まぁ、この世界には『魔法』があるから『魔法』がない世界より思考が読みやすいってだけなんだけどね」
「……なるほど。確かに、この世界では私も『力』が使いやすいです」
――調整に気を遣わないといけないほどに。
「まぁ、だからこそ。あの子に会った時に、あなたの存在に気がつく事が出来たんだけどね」
「……そうですか」
要するに、最初から何となく察してはいたモノの、カナリアに実際に会って確信を持った……という事なのだろう。
「ただ、あの子に興味を持ったのはそれとはまた別の話。それに、色々と気になるところがあってね」
「気になるところ……ですか」
ディーンが尋ねると、アーリアは「ええ」と頷く。
「――と、言いますと?」
「王子……いえ、彼の周りをウロウロしている『女』が目についてね」
「女?」
「ええ、同じクラスの子なんだけど」
「……」
アーリアが小さくため息をついている辺り、相当目につくのだろう。
「正直、あまりに打算過ぎてね。むしろ笑えると言うか、滑稽過ぎると言うか……」
「打算……ですか」
「ええ、でも。あまりにも分かりすくてね。肝心の殿下からは避けられているわね」
「……」
その言葉で、ディーンはカナリアから聞いていた『主人公』を連想した。
「ええ、その子で合っているわよ」
「ですから……思考を読まないでください」
口には出していなかったものの、こうして指摘されると、あまり良い気分にはならない。
「ふふ、ごめんなさいね。でも、あの子って殿下だけじゃなくて色々な男性と仲が良いみたいなのよね」
「それは……」
ディーンは「彼女が乙女ゲームの主人公だから」と言いそうになったが、その言葉をグッと飲み込んだ。
――まぁ、これくらいなら読まれても問題はありませんし。
「――正直、クラスの雰囲気はあまり良くないわ。ただでさえ男性にこびを売っているって言われているにも関わらず、殿下にまで近づこうとしているのだから」
「それは……」
確かに、穏やかな話ではない。
「しっ、しかし、殿下は相手にされていないんですよね」
「ええ。お昼休みは大体授業が終わったらすぐにどこかに行ってしまうわ」
「でしたら……」
ディーンがそう言うと、アーリアは「でも」とディーンの言葉を遮る。
「それをあの子は面白くないって思っているみたい」
「面白くない……ですか」
「ええ。どうにもあの『エステル』って子は思っているみたい」
「……」
確かに、自分が「乙女ゲームの主人公だ」と分かっていれば、思い通りになっていない現状に憤りを感じるのは容易に想像がつく。
「正直、あんまり野放しにしておくのも……ね」
「それは……そうですが」
しかし、ただの使用人であるディーンと「同じクラス」というだけのアーリアではどうしようもない話だ。
――その上、下手をすればお嬢様にご迷惑をかけかねませんね。
アーリアの隣国での位は分からないが、下手をすると「公爵家の令嬢であるカナリアが指示をした」などと取られかねない。
――そうなると、今までのお嬢様の努力が水の泡になってしまいます。
カナリアが「殿下の婚約者にならないために」と努力していたのも、偏に「主人公をいじめている」という状況を作らないためである。
「……それは大丈夫よ。ちゃんと『協力者』を得れば……ね」
「……え?」
アーリアには既に目星をつけているのか、キョトンとしているディーンに対し、満面の笑みで答えた。




