第3話
「それで? あの子からの要求を出来る限り考慮してこの世界で生まれ変わった……のは分かったけれど」
そう言いつつアーリアは「腑に落ちない」といった様子でこちらを見ている。
「なんであなたはこの世界に留まっているの?」
「……」
――まぁ、そうなりますよね。
しかし、それ以上にアーリアから見てお嬢様は「あの子」という認識らしい。
――なんと言いますか……。
カナリアは「とても可愛い妹みたいな子」と認識しているらしいのだが、このお互いの認識の違いに、ディーンは思わず笑いそうになってしまう。
――ですが、実際はお嬢様の方がかなりの年下になるのですよね。
ただ、そこには「人間」と「天使」というそもそもの違いが存在している。
「本来は、お嬢様がこの世界で前世の記憶を取り戻してからこの世界を去るつもりだったのですが……」
「ん? 去るつもりだった……って、あなた。あの子が前世の記憶が戻るって分かっていたの?」
「……はい。私は『お嬢様が天寿を全う』して欲しかったので」
ディーンがそう言い切ると、アーリアは「あなたがそこまで言うなんて……」とでも言いたそうな表情だった。
「ただ……」
「ただ?」
「実はちょっとした問題が発生致しまして」
「?」
そう呟くと、アーリアは不思議そうな表情をしているだろうという事は、ディーンも何となく察していた。
「何? 問題って」
「実は、お嬢様が前世の記憶を取り戻した際に聞いたのですが――」
ここでディーンはカナリアから聞いた『この世界がどうやらカナリアが前世でプレイしていたゲームと酷似している』という事と『その中で今の自分が悪役令嬢という役付けだった』という事を話した。
すると――。
「……ああ、なるほどねぇ。それで」
アーリアはなぜか納得した様に頷く。
「? どうかされましたか?」
「ああ、いえね。なんと言うか……」
そう言いつつなぜかあごに手を当てながら考え込んでいる。
「あの子、いつもやけに目立つことを避けている様に思えたから」
「ああ、多分。それは意図的に避けているからでしょう」
カナリアは「いつどこで何がきっかけで王子に会うか分からない。それだけでなく、今の状況が変わるか分からないから」という理由で、基本的に目立つような事は避ける傾向が強い。
「ええ、だから納得したのよ」
アーリアはそう言いつつ、なぜか「はぁ」とため息を深くついた。
「? 何か」
「いえ、ただ。不思議だと思っただけよ」
「?」
ディーンはアーリアの言葉が逆に不思議だ。
なぜなら、お嬢様が「出来る限り目立たないようにしている」のは、前世の記憶を取り戻してからは「普通」になっており、人前に出る事もなかったからだ。
「普通はね。貴族は目立ってなんぼ。自分を着飾ってなんぼみたいなところがあるから」
「まぁ……そうですね」
ただそれも偏に「目立つ事によって王子との関わりを持ちたくない」という気持ちからだったのだが。
「でも、あの子はすごいし、とても興味深いと思うわ。勉強にしても、発想にしても」
「……!」
アーリアはそう言いつつ、目の前に置かれたお茶請けの『クッキー』を一つ手に取り、ニヤリと笑った。




