第2話
「……」
ディーンが前世の彼女を初めて見たのは、彼女がまだ幼かった頃だ。
「前世のお嬢様は……とにかく元気な方で、いつも外を駆け回っている様な方でした」
「ふーん。じゃあ、あなたはそんな昔からあの子を知っていたのね」
言われて見ると、確かにそうだ。
ただ、実は元々「天使」というのは「地域の管轄形式」で分けられている。要するに「担当の地域」というモノがあるのだ。
「でもまぁ管轄を考えれば小さい頃から知っていてもおかしくはないわね」
「……はい」
そう、ディーンがカナリアの前世。つまり、彼女を知ったのも偏に「自分の管轄だったから」である。
「あれ、でもちょっと待って。普通であれば……私たちが表に出る事なんてないわよね?」
「……」
アーリアに指摘され、ディーンは思わずパッと顔をそらした。
そう、そもそも『天使』というのは人の目には見えない。いや「人に見えて」はいけない存在なのだ。
「まさか、あなた……」
アーリアがここまで驚いているのは「生きている人間に自分の存在がバレる」という事が罰則に繋がり兼ねないからである。
「いっ、いえ。特に『気になったから』というワケではありません」
それが分かっていたため、ディーンはすぐに訂正した。
――そう、確かにいつも笑顔で楽しそうにしている彼女が「気になったから」と言うワケじゃない。
決してそうではなく……。
「じゃあ何?」
「じっ、実は……その。小鳥に擬態している時に怪我をしてしまいまして」
「怪我? どうしてよ」
「それは……その、結局。不注意と言いますか……」
そこでディーンはハッとした。
なぜなら、それは結論を言ってしまうと「彼女を気にかけていたから」という事を認めてしまう様なモノだと気がついたからである。
「……はぁ。普通であれば、私たち『天使』は人に見える存在じゃないにも関わらず、擬態していたって事は、あなたが人前に出ないといけない状況だったって言っているモノじゃない」
「……はい」
あまり認めたくなかったが、結局のところはそういう事である。
「で? なんでそこまで執着するのよ」
「そっ、それは……助けて頂いた恩を……ですね」
正直、彼女の明るさはディーンにとって「異質」に映った。
担当した地域がそうだった……とは言わないが、ディーンの目には「人間は暗い存在」だと思っていた節があった。
――だから、助けてくれるとも思っていなかった。
「ああ、なるほど。その怪我を治療してくれたのが、彼女だったってワケね」
「彼女……と言いますか、彼女の家族……ですね」
彼女の家で治療を受けて感じた優しさや温もりに癒され、ディーンは「いつかこの恩を返したい」と思っていた。
「しかし、我々『天使』と人間の時間の流れは違います。そして、あっという間に時は流れ……ある日、彼女の死期を突然知らされたんです」
基本的に天使の仕事は「亡くなった人を導く」というモノだ。そして、その知らせはいつも突然である。
「……なるほどね。いつもの事だからあまり気にしていなかったけど」
「はい。当時の私は、自分の出来る限りの事を考えました……」
「で、その彼女に提案して、あなたはすぐに休みを取って彼女について行った……と」
「はい」
そう答えると、ディーンはお茶のおかわりをアーリアの前に置いた。




