第1話
「……どうぞ」
「ありがとう」
目の前に置かれたお茶が入ったカップを見て、アーリアは上機嫌に答える。
「――それで、どうして『あなた』がここにいるんですか」
それに対し、ディーンは怪訝そうに尋ねる。
「ふふ、随分警戒しているわね」
しかし、ここまでディーンが警戒心を露わにするのも無理はないだろう。
そもそも、アーリアはお嬢様から聞いた限り「隣国の貴族」のはずだ。それなのに、目の前にいるアーリアはメイドも執事も付けずにディーンの前にいる。
――まぁ、本来の彼女を知っていれば、むしろ「足手まとい」をつける必要性すらないのですが。
正直なところ。それくらいアーリアの実力はある。
――お嬢様から「下位のクラス」だとは聞いていますが。
それは多分「そうした方が色々と都合が良かったから」に過ぎないという事をディーンは何となく察していた。
「でも、どうして……か。そうね」
アーリアはそう小さく言いつつカップを置いて「ふぅ」と小さく息を吐く。
その様子は、どちらかと言うと「色っぽい」という感じがし、どうにもお嬢様から聞いていた「幼く可愛らしい」という話からはかけ離れている様に見える。
――見た目はお嬢様の言う通り「可愛らしい」というせいで「違和感」を感じてしまいますね。
しかし、実はこれが彼女の「本来の態度」で「普通」だ。
ただ、見た目が「アーリア」だというだけで。
「簡単に言うと、あなたがこんな事をするほど肩入れしている子がどんな子なのかな? って気になっただけよ」
「……え。かっ、肩入れ……ですか?」
驚いた様にディーンが尋ねると、アーリアは「ええ」と頷く。
「いっ、いえ。私はそんな……肩入れだなんて」
慌てた様子でそう言うと、今度はアーリアが「え、気がついていないの?」と言わんばかりに驚きの表情でディーンを見る。
「いやいや、完全に『肩入れ』でしょう。ただでさえ『生まれ変わりの舞台』を好きにさせて、更に同行するなんて珍しいのに」
「そっ、それは……」
それを指摘されてしまうと……ディーンとしても答えに困ってしまう。
しかし、アーリアの指摘はごもっともだ。
本来であれば『天使』であるディーンは前世で悪行など悪い事をしていない限り、亡くなった人の魂を「天国」へと連れて行き、その後に『生まれ変わり』をさせる。
しかし、実はこの『生まれ変わり』は基本的に亡くなった人が自由に選べる……というワケではない。
それこそ「天使が肩入れ」しない限り出来ない事だったのだ。
「私が知る限り、あなたは基本的に誰かと仲良くする様な事もなかったし、それこそ誰にも興味を示さない冷めた子だと思っていたから」
「……」
実はアーリアはディーンから見て「先輩」だ。しかも「直属の先輩」とも言える程である。
だからこそ、彼女はディーンの事をよく知っていた。
「だから、まぁ。あまりにも意外でね」
「別に……ただの気まぐれですよ」
「そう? 私が知る限り、あなたが『気まぐれ』で相手の子の要求を聞いて、しかも一緒に行動をするとは思えないのだけど」
「……」
そう言うアーリアの視線は、完全にディーンの真意を探っている様にしか見えない。
――コレは……ちゃんと説明しないと引いてくれそうにないですね。
そして「ここでちゃんと説明しないと、ひょっとするとおかしな報告をされかねない」という事も、今までの経験から分かる。
――それは避けたいですね。
実は「天使」にも色々と『ルール』が存在しており、当然。罰則も存在している。
――余程の事がなければ、基本的に「自由」ではあるのですが。
ごくごくたまに、その「自由」をはき違える輩がいるのもまた事実で、最悪の場合は『天使』でいる事すら出来なくなってしまう。
それはディーンも分かっていたため「はぁ」と思わずため息をもらしたのだった――。




