第5話
「……ん? おや、もうこんな時間でしたか」
放課後を告げるチャイムが鳴り、ディーンは時計を確認するために顔を上げて持っていた本をパタンと閉じる。
「……」
ディーンの主であるお嬢様。カナリア・カーヴァンクが魔法学校に入学して早くも一週間が過ぎた。
ただ、最初は授業の進め方などの説明がほとんどで、本格的に授業が始まったのはついこの間の話なのだが、この学校では「小テスト」を教師のさじ加減で行うらしく、お嬢様はそこで唯一満点を取った。
――お嬢様曰く「授業と元々予習してあったところが偶然出ただけ」とおっしゃっていましたが。
それでも、満点を取る事はそうそう出来ない。
――しかし、お嬢様にもお友達が出来た様で良かったです。
入学試験や入学式を迎える頃のカナリアはかなり精神的に不安定で、ディーンは色々と心配していたが、ここ最近は友人も出来たらしく、楽しそうにしている。
――確か、繰り上げで入学された方だとか。
カナリア曰く「先日出た不正入学者の代わりに二次試験で合格した隣国の貴族」らしく、授業が本格的に始まったのはここ最近だった事もあり、このタイミングで入学してきても特に問題はないらしい。
――まぁ、入学出来たのは「隣国の貴族だから」でしょうね。
その辺りの細かい『大人の事情』は……お嬢様たちには関係のない話なので、あまり考えない事にした。
――あくまで私はお嬢様の執事ですしね。
そして、カナリアはいつも授業が終わってから図書室で勉強してこの寮へと帰って来る。
「さて、準備を始めますか」
カナリアが帰ってくるのは夕食の時間よりも少し早い時間だ。
しかし、授業を終えて図書室で復習及び宿題を終えて帰って来る為、基本的にお腹をすかせている事が多い。
――お嬢様は食べる事も大好きですし。
それは幼少期から変わらない。そこでディーンの仕事は、そんなお嬢様の為に軽い食事を準備するところから始まる。
「……ん?」
そうして準備に取りかかろうとしたところで、突然部屋をノックする音が聞こえた。
――誰でしょう。
基本的に、この学校の寮は「上位クラス」と「下位クラス」で分かれており、さらにカナリアがいるクラスは成績上位者が集まるクラスという事もあり「一階」にある。
そして、カナリアの友人である「アーリア」は下位クラスだ。
つまり、カナリアには上位クラスの友人はおらず、こうして部屋を尋ねてくる様な人物はいないはずなのだ。
「……はい」
そうして警戒しつつ扉を開けようとした瞬間――。
「!」
一気に扉を開けられ、呆気に取られている内に一人の少女が部屋へと入って来た。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「なっ! なんです……か。あなたは……」
突然現れた少女に、ディーンは思わず大声を上げそうになったが、その姿を見てすぐにハッとした。
なぜなら、その少女こそカナリアから聞いていた「友人の容姿」にソックリだったからである。
――確か、お嬢様曰く「妹の様に可愛らしい方」でしたか。
言われて見ると、確かに目の前にいる少女はこの世界でかなり目立つ容姿をしている。
しかし、実は以前にカナリアからアーリアの話を聞いた時から、ディーンの頭の中には「一人の人物」が思い当たっていた。
――いえ、そもそも「人」と言ってもいいのか分からない程ですね。なぜなら、彼女は……。
「久しぶりね。えっと、この世界では『ディーン』だったかしら」
「……」
可愛らしい笑顔を向けるアーリアに対し、ディーンは警戒心を崩さずそのまま鋭い視線を向けた。
なぜそうしたのか……その理由は実に単純明快である。
――なぜなら、彼女は……私と同じ「存在」なのだから。




