第4話
「グレン」
結局のところ。彼とはなんだかんだ幼少期からの付き合いになっていた。
――学校に入学した後もたまに会う事はあったけれど。
こうして顔を合わせて話すのはかなり久しぶりだ。
「……」
「どうかされましたか?」
私が何気なくジーッと見上げている視線が気になったのだろう。グレンは不思議そうに尋ねる。
「いえ? なんでもないわ」
「そうですか」
そう言っていつもの穏やかな表情を見せる。
「……」
――いつも思うけれど、グレンって決して邪険に言う事はないのよね。
最初に会ってから今までを思い返してみても、グレンが私に対してそう言った態度で私と接した事はない。
いつも穏やかな笑顔で笑っている。
その落ち着きのある態度が成熟した大人の様に見えて、私はたまにまだまだ子供な自分を恥ずかしく思う事もあった。
――まぁ、それはそれとして……。
そう思いつつグレンを見上げる様に顔を上げると……。
「?」
「あなたまた背が高くなったんじゃない?」
そう言うと、グレンは珍しくキョトンとした表情になったが、すぐに「そうですか?」とまた穏やかな笑顔で答える。
「ええ、少なくとも私が最後に会った時よりも」
私がそう言うと、グレンは珍しく「それは……良かったです」と、どことなく嬉しそうな表情を見せた。
「それより、勉強会をするのでしたよね」
「え、ええ。もしかして、一緒に勉強したいの?」
そう尋ねると、グレンは「はい」と答える。
「カナリア様に教えてもらえる様ですので」
グレンがそう言うと、アーリアは「うんうん」と隣で大きく首を縦に振って同意する。
「そっ、そんなに?」
「はい」
「でっ、でも。あなたは上位クラスにいるでしょう? 私が教える事なんて何もないと思うけれど……」
そう答えると、グレンは「いいえ」と首を左右に大きく振ってコレを否定する。
「先日の小テストで満点を取られたのはカナリア様だけです。それを踏まえて考えただけでもとても素晴らしい事です」
「そっ、そうなの?」
「はい。少なからず魔法を勉強するために学校に通っているのですから」
「そっ、それは……そうね」
確かにグレンの言う通りである。
――ただなぁ。
しかし、どうしても私の頭の中には「ここってゲームの世界なんだよなぁ」という事が過ぎってしまう。
――いや、確かに「学生の本分が勉強」って事はよぉく分かっているのよ?
ただ、それが本当に「大事なのかな」と思ってしまうのは……。
「えー? 本当にぃ?」
「ははは、そうなんだよ。こいつがさぁ」
「なんだよ。別にいいだろ!」
「二人とも、あまり騒ぐな。うるさい」
ふと廊下の端から聞こえてきた大きな話し声と共に、話をしている私たちの横を堂々と通り過ぎったのは、主人公と攻略キャラクターたちだ。
「……」
彼らの姿を見ていると……どうにも「ゲームの世界」という事実に引き戻されてしまう。
――でも、ゲーテ王子の姿はないのよね。
そこが私の知っているゲームとの大きな違いである。
「いつもあの人たちは一緒ね」
「ええ、とても仲が良いみたい」
アーリアの言葉を受け、私もそれに頷くと……。
「仲が良い……ですか」
なぜかグレンはあまり良い顔をしていない。
「? どうかしたの?」
「いっ、いえ。何でもありません。ところで、昼休みですよね?」
「え?」
「勉強会ですよ」
「えっ、ええ。そのつもりだけど」
「では、是非参加させて頂きます」
「私も!」
二人がそう答えたところで、ちょうど始業を告げるチャイムが鳴り響いた。
「分かったわ」
私がそう答えると、二人は満足したようにそれぞれの教室に戻った……のだが。
――ん? そういえば……。
「あの二人」
――面識なんて、あったかしら?
そんな疑問が頭を過ぎったのは、二人が教室に戻ったのを確認して私が自分の席についた時だった。




