第1話
「……え?」
あまりにも唐突かつ、その驚きの『内容』に、私は思わずその場で小さく呟いて固まってしまった。
「……あっ、あの! 嫌ならそれでいいんです!」
固まってしまった事に対して、彼女はすぐにそう言って否定した。
「ただ私が勝手にそう言いたいだけ……と言いますか。でも、勝手にそんな呼び方をしていいのかなと思って、その。やはりここは許可が欲しいと言いますか……」
――律儀か!
なんてツッコミを入れたいところではあるが……。
私としては影でコソコソと言われている「世間知らずな令嬢」よりも、まだ「お姉様」の方がマシではある。
――しかも、こうして「許可」を取りに来る辺り、ちゃんとしているわよね。
それこそ、影でコソコソと話して勝手に笑っている令嬢たちよりも随分と可愛らしい。
「あの」
「え、ああ。別に嫌とかそういうワケじゃないのよ?」
「え、じゃあ。良いんですか?」
「まっ、まぁ呼び方なんて好きにすれば良いわよ?」
そう言うと、彼女はパッと明るい笑顔を私に向けた。
――まぁ、いきなり「お願い」なんて言うからただただ驚いた……と言うか。
でもまぁ、前世でも学生の頃は後輩に「先輩」と呼ばれていた。
――最初はそれがむず痒く感じる事もあったけれど。
最終的には慣れたのだから、結局「慣れ」のところ慣れてしまえば何も問題ないのだろう。
――まぁ、要するに「本人次第」って事なのかしらね。でっ、でも「お姉様」って呼ばれるのは……慣れるのに時間がかかりそうね。多分、同い年だろうし。
ルンルンとスキップをしそうな程上機嫌な様子で私の前を歩く少女は見た目こそ幼く見えるが、こうしてこの学校に通えるところを踏まえて考えると……同い年という事は容易に想像が出来る。
――それに、この学校で飛び級なんて聞いた事もないし。
いや、ひょっとしたらあったのかも知れないが「ゴシップ大好き」な貴族たちがこうした「ゴシップのネタ」になりそうな話を聞き逃すはずがない。
――でもまぁ、とりあえず。
「ところで、なぜ『お姉様』なのかしら?」
「え」
正直、どうしてもそこが引っかかってしまう。
――ひょっとしたら「お姉さん」が欲しいのかしら?
なんて思わなくもないが、やはり気にはなる。
「多分、私たち同い年だと思うけれど」
「え、あ。なっ、なんと言いますか……その、カナリア様って大人で落ち着いた感じがして……理想の『お姉様』って感じがして!」
顔を真っ赤にして顔を伏せているアーリアを見ていると、下手に何かを言う方が悪い気がしてしまう。
その様子はまるでその昔。あまりにも美形な父と兄に赤面して話せなかった小さな頃の自分を見ている様な気がした。
それがあまりにも可愛らしく見えたのだが……。
――でっ、でも同い年で『お姉様』って呼ばれるのも……。
やはり正直言って恥ずかしい。
「だっ、ダメですか?」
最初でこそ「好きに呼べばいい」と言ったが、あまり私の反応が良くない事が分かると、彼女はおずおずと尋ねる。
でも、そう言って悲しそうな顔をされると、無性に申し訳ない気持ちになってしまう。
それこそ、私のちょっとした「恥ずかしさ」なんてどうでも良いと思えてしまうほどに――。
――なっ、なんて言うか……小型犬を彷彿とさせるのよね、この子。
本当に可愛くて、それこそさっき見た主人公なんて目でないほどである。
――むしろこの子が主人公でも良いくらいよ。
この「素直さ」と言い「可愛さ」と言い……先程見た主人公よりもアーリアの方がよっぽど主人公らしく私には見えた。
「だっ、ダメ……じゃない……わよ」
で……まぁ結局のところ、私の方が折れた。いや、そもそも「好きに呼べばいい」と言っていたのだから、折れるも何もない。
「本当ですか!」
そして、私がそう言ったのをキチンと聞いたアーリアが顔を上げてパッと明るく笑っているのを見ると……どうしても「まぁ、別に良いか」と思えてしまうのだった。
「あ! ここですね。案内して頂きありがとうございました!」
「いいえ、私も用事があったから」
お辞儀をするアーリアに対しそう言うと、パッと笑顔で職員室へと入っていったのだった――。




