第5話
――えーっと?
正直、私にしても主人公にしても、なかなかに「目立つ容姿」をしているのではないかとは思っている。
しかし、それは「綺麗」とか「可愛らしい」とかそういった類に話であって、目の前にいる少女の様に「目立つ髪色だから」とか、そういった「見た目」の話ではない。
――そもそも、この世界の人たちはブロンドとか茶色とか……そんな感じなのだけれど。
髪の色の濃さには多少の差はありつつも、目の前にいる彼女の様にここまで奇抜な髪色はこの世界で見るのは初めてだった。
――あ、でも。目の色は色々な人がいたわね。
最近の研究では、魔法量が多ければ多いほど目の色に影響が出る事があるという事が分かっている。
――私の目の色もそうみたいだし。
しかし、それで人体に何か影響があるか……と聞かれると、健康面などに大きな影響はない。
ただ、一つだけ懸念しなければならないのが「魔法量が多いが故に魔法の事故が起きやすい」という点である。
――まぁ、そんな事にならない為にこうやって魔法学校に通って勉強しているんだけどね……って、あ。
なんて事を思っていると、ふいに少女と視線があった。
――やばっ。
あまりにも見つめすぎてしまった自覚があったため、私は思わず顔を背けてしまった。
「あっ、あの!」
さすがに一旦目が合っている上に、声をかけられて関わらず無視をするワケにはいかない。
「はい?」
「えと。職員室へはどういけば良いのでしょうか」
――ん? 職員室?
少女の言葉を聞いて一瞬疑問に思ったが、すぐに「ああ!」と合点がいった。
実は学校が始まって既に一週間が経過しているのだが、ちょっと前に貴族による替え玉受験が発覚し、退学者が出たと噂になっていたのだ。
――じゃあ、この子は欠員が出て繰り上げ合格になった……と、でもこの子はきっと下位のクラスになるのでしょうね。
細かい試験の繰り上げ合格の条件などは知らないが「繰り上げ合格」という事は……多分そうなるのだろう。
「あの?」
「あっ、ああ。職員室ね! それなら……あ」
――そうだ、そういえば私もさっきの授業で聞きたいところがあったんだった。
前世ではあまり勉強に熱心ではなかった私だったが、魔法に関しては「分からないところをそのままにしておく」というのは逆に気になってしまう様になっていた。
――でもまさか、自分がこんなに勉強熱心になるとは。
正直自分でも驚きである。
「私もちょうど職員室に用事があるので一緒に行きましょうか」
「え! 良いんですか?」
「ええ」
そうして彼女との一緒に職員室に向かい始めたところで……。
「あの!」
「はい」
「もしかして『カナリア・カーヴァンク様』でしょうか?」
「え? ええ、そうよ」
そう答えると、少女はなぜか「感激!」と言わんばかりの顔でこちらをジッと見つめる。
「あっ、あの?」
――どっ、どうしたんだろ?
正直、私としては「なぜ、彼女が私の名前を知っているのだろう?」という疑問もあったが、それ以上に彼女が「私と会えて嬉しそうにしている」という事の方が不思議だった。
「あ、すみません! 実は私。一度あなたにお会いしてみたくて」
「え? 私に……?」
「はい」
――なっ、なんでだろう? 私はこの子と直接的な面識は一切ないはずだし……というか、これだけ目立つ外見なら一度会えば覚えているはず。
一度も会った事がないはずの私に、なぜこの少女はそこまで会いたがっていたのだろうか。
――わっ、分からない。
「えと、実は私。貴族は貴族でも隣国の出身でして」
「はい」
――別におかしな話じゃないわね。
何せこの魔法学校はこの世界屈指の魔法学校で、実はこの国の貴族だけでなく、隣国の貴族も受ける事がある。
――まぁ、だからこそ倍率が毎年とんでもない事になるんだけど。
「それで、私は試験を受けられなかったんです。でも、事情は分からないんですけど空きが出たからって二次試験を受ける事が出来て」
「それは良かったですね」
そう言うと、彼女は「はい、運が良かったです」とパッと明るい笑顔で答える。
「それで、受けた後に教師の方たちがもの凄く勉強熱心で成績の優秀な方がいるって話しているのを聞いて!」
「そっ、それが?」
――私?
そう尋ねる様に私は自分で自分を指すと、少女は大きく首を縦に振って肯定する。
「しかも、入学試験ではトップ! 直近の小テストでも満点を取っていると聞きまして」
――トップ? そうだったんだ。
あの入学案内に結果までは書かれていなかった。
――まぁ、その方が変に目立たずに済んだけど。
通例であれば、成績トップの人が新入生代表で挨拶をしないといけないのだが……今年はゲーテ王子が行った。
多分、彼が王族だから……という理由だろうが、その話を聞いて私としては「むしろ王子と同い年で良かったわ」とホッと胸をなで下ろした。
「それで……会ってみたかったの?」
「はい!」
またも満面の笑みで答える少女に対し、私は「そう」と答えつつ、思わず照れそうになる。
――だって、小さい体にこの一生懸命な感じが……。
とても可愛らしくて「ああ、妹がいたらこんな感じなのかな」と思ってしまうのだ。
「あ、そうだ。自己紹介がまだでしたね! 私の名前は『アーリア・フリークス』です」
「それじゃあ、改めて『カナリア・カーヴァンク』です」
笑顔でそう言うと、アーリアは「これからお願いします!」と嬉しそうにしていたのだが……。
「あっ……あの」
「ん?」
なぜか言いにくそうに顔を下に向けた。
――どうしたのかしら?
私はその様子を見ながら、アーリアの次の言葉を待っていると……。
「ちょっとお願いがありまして」
「? お願い?」
「はい」
「何かしら?」
そう尋ねると、アーリアは意を決した様に顔を上げて……。
「その! カナリア様の事を『お姉様』と呼んでも良いでしょうか!」
大きな声で私に向かってそう言い放った――。




