第3話
「……」
前世で見ていれば、とても親しげで楽しげな友人同士の会話に聞こえていただろう。前世であれば。
――前世では男女が仲良くしていても「あ、仲良さそう」で済まされる話なんだけど。
残念ながら、ここは前世とは違う世界だ。
――舞台は私がやっていたゲームの世界観だけどねぇ。
ここでは基本的に「実力主義」とは言え、生徒のほとんどが「貴族」である。それはつまり、貴族の常識がここでの常識と自然になっているのだ。
――よっぽど実力差がなければ、貴族の位の差は埋められないのよね。でも、それで行くと……この状況はあってはならない事なんだけど。
「……」
楽しげに話ながらすれ違う主人公は男爵家の令嬢。
つまり、一応彼女も貴族令嬢にはなるのだが、残念ながら貴族の位の中では低い方に位置する。
そして、彼女と親しげに話している男性は全員上位貴族に位置する将来有望な人物たちだ。
――乙女ゲームではありがちな設定ではあるのだけれど。
しかし、ここではそういった上位の存在である彼らと彼女が仲良くなるのは珍しい……どころか、今の状況はあまり褒められた事ではない。
――って言うか……ちょっと待って。
そこで私はふと疑問を感じた。
なぜなら、彼らは仲むつまじそうに話をしながら同じ方向を歩いている。そして、今はお昼休みの時間だ。
――でも、たった今。お昼に入ったばかりよね。それってつまり……。
そこで私はある「結論」に達した。それは「彼らが彼女と同じクラスではないか」という「結論」だ。
――え、じゃあ。
そうして導き出されるのは「彼らが下位クラス」という事実。
「……!」
それが分かった瞬間。私は思わず叫んで卒倒しそうになった。
だってそうだろう。まさか、乙女ゲームの攻略キャラクターともあろう人物たちが、まさか下位にいるとは……このゲームをプレイした事があれば、誰だって驚く。
――うーん。でも、コレって偶然……よね?
まさか「主人公が下位のクラスだから」という理由で攻略キャラクターも一緒に……なんて事はないはずだ。
――じゃあどうして?
「……」
なんて考えたが、どうにも簡単に答えは出なさそうだ。
「なんだよ。二人で抜け駆けか?」
そんな中、声を上げたのは……短い髪を少し立てた活発そうな少年だ。
――確か彼は……基本的に筋骨隆々な前世で言うところの「体育会系男子」は決まって『騎士団長の息子』という立ち位置なんだけれど。
この作品では私がその立ち位置におり、楽しそうに主人公である『エステル・リオナ』と話している『ジョイス・フォーリナー』は私の父である騎士団長に憧れる侯爵家の息子という立場である。
――騎士団長に憧れるのであれば、彼女じゃなくて私に媚びでも売っておいた方が良いと思うのだけど。
なんて思うが、こういったタイプは基本的に「貴族の位なんて関係ない。自分の実力で!」と考える事が多い。
そのため、私が考えた様な事はきっとしないのだろう。
――で、後の二人は医師団の団長の息子と……この国一の商会の息子……と。
この二人は先程の彼とは違い少し線が細い印象を受けるが、それは彼が「騎士団は騎士団でも父の様に両方出来る騎士団長になりたい」という気持ちから鍛えているだけの話である。
――それにしても……。
この将来の王国を支えるであろう有望な人材と既にここまで仲良くなっている彼女の手腕には正直驚かされる。
それこそ「彼らと仲良くなる術を既に知っていた」かの様だ。
「……まさかね」
そんな時にふと頭を過ぎるのは「彼女もひょっとして私と同じ?」という事だ。
――いえ、そんな事は……。
正直「ない」と断言したい。
しかし、目の前にいる彼らは貴族の身分関係なく仲良く笑っている。しかも、その期間は入学して一週間程だ。
――それを踏まえても、あまりにも上手く立ち回りすぎでしょ。
なんて思わず溜息をつきそうになっていると、廊下の真ん中で楽しげに話している彼らに近づく一人の男性の姿があった。




