第2話
「……え?」
「ですから、お嬢様には『グレン様』というご友人はいるではありませんか」
サラリと答えるディーンに対し、私は思わず待ったをかける。
「いっ、いや。ちょっと待ってよ。なっ、なんでそこでグレンの名前が出るの?」
「おや、では彼以外にご友人の様に親しいと思われる方が誰かいらっしゃいますか?」
「そっ、それは……」
私はディーンの言葉に思わず「うっ」となってしまったのだが、実際にその通りなので何も言い返せない。
――確かに、彼は『友人』と言えるかも知れないけれど。それでも……。
私の独断で言っていいのか分からない。
――もしかしたら、迷惑になるかも知れないし。
それこそ、私は「社交界に一切現れない令嬢」として有名らしく、とても良い噂があるとは思えない。
「しかし、彼は自分で魔法学校に入学したいと言っていましたし」
「それは……そうだけど」
実は一言に『貴族』と言っても貴族の全員が全員魔法学校に通えるワケではない。
――貴族だから……って全員魔法の存在があるワケじゃないらしいし。
だからこそ「魔法学校に通う事」という事自体が一種のステータスになっているほどである。
――その中には無理矢理にでも入学させようとする人もいるみたいだし。
それはもはや「季節の風物詩」と言っていいほど、毎年この時期にちょっとした騒ぎになる。
しかし、いくらお金を積んで無理矢理に入学させたとしても、その後で苦労をするのは子供だ。
――成績不振で退学……なんて事もありえるって言うのに。
そう、この魔法学校は「入学さえ出来ればそれでいい」なんて事はない。当然テストはあるし、筆記だけでなく実技もある。
しかも、そのテストの回数は小テストを合わせて最低でも六回はあると言う噂があるほど、この学校はテストが多い。
――でもまぁ、小テストはその科目の先生の裁量によるらしいけど。
ただ、ゲームでは文章として「テストがあった」としか書かれておらず、テストの結果はそれまでにステータスを上げておけば何ら問題はない。
――たとえ結果が悪くてもそれはそれでイベント回収が出来るし、良くてもイベント回収が出来るのよね。
しかし、これが起きるのは「ランダム」という難点があるのだが、そこら辺は前世の学校と変わらないように思う。
――要するに「抜き打ち」って事だからね。
「しかし、私が見るに……」
「? 見るに?」
なんて事を考えている私を余所に、ディーンはなぜか不自然にそこで言葉を句切った。
――どうしたんだろ?
「いえ、なんでもありません。ですが、魔法学校に入学するだけの実力は備わっていると思います」
「まぁ……そうね」
あのグレンに誘われて行ったお茶会の後。私は「つい」グレンを『勉強会』と称して屋敷に招待してしまった。
――まぁ「建前として言っただけ」という事にしてしまっても……いえ、それではダメよね。
約束を違えた……なんて話になれば、それこそカーヴァンク家の泥を塗ってしまう事になりかねない。それこそ、ほんのちょっとした事で変な噂を立てられるかも知れない。
――いえ、家の名前だけじゃなく……。
いつどこで何がきっかけになって自分の身を滅ぼすきっかけになるかも分からない。それが『悪役令嬢』という立ち位置なのだろう。
もちろん「後悔するくらいなら最初から言わなければ……」と言われてしまえばそれまでなのだが。
――それにしても……。
「グレンって勉強は出来るけど、魔法の実力は……なんと言うか」
私から見て「普通」だった。
――正直、本人の魔法に対する意欲と比例していないと思うくらいに。
なんて思っていると、ディーンは「えー」と言葉を濁す。
「それは……お嬢様を基準にしているからでは?」
「え?」
不思議そうに首をかしげる私に対し、ディーンは気の毒そうな表情を向ける。
「……そんなに?」
「以前から言っている通りです」
「たっ、確かにグレンと比べると……とは思うけど」
「むしろ、グレン様は普通の方よりも優秀だと思いますよ」
ディーンの答えに、私は「そっか」と呟く。
そもそも「魔法」というモノは、魔法使用者が「イメージ」をして行うモノらしいのだが、そこにはもちろん、自分が「出来る事」と「出来ない事」のボーダーラインをちゃんと理解出来ていないといけない。
――それが分かっていないと「暴走」って事になりかねないから。
ただ「暴走」が起きるのは「出来ない事を無理矢理やろうとした結果」である。もちろん「無理をした結果」出来る場合もあるが、大抵はその逆の結果になる事が多い。
だからこそ「魔法を使う」と言う時は基本的に「付添人」が必要だ。
「そもそも、お嬢様の『想像力』が豊かというのも魔法の結果に結びついていると思いますが」
「……その言い方だと、何か棘のようなモノを感じるのだけど」
「いえいえ、悪口ではありませんよ」
そう言ってディーンは穏やかに笑う。
――まぁ、それは否定しないけど。
ディーンの言葉に少し物申したい気持ちになりつつ、私はあえて何も言わずに飲み物に手を取った。




