第1話
それからあっという間に時は流れて魔法学校入学試験……という流れになったのだが――。
「うーん……」
「どうかされましたか?」
私は目の前にある入学試験に関する案内の紙。
「大丈夫ですよ。お嬢様の実力で入学が出来ない……なんて事はありえませんから」
「……」
多分、私が紙を見て唸っていたからだろう。ディーンは「心配」というよりは私を元気づける様に笑顔で言う。
――ありえない……ね。
確かに今の私であれば、余程の不調でなければ「不合格」という事はないだろうとは思う。
――自分で言うのもおかしな話だけどね。でも、いつ何が起きるか分からないというのもまた事実……なのよね。
それを考えると、やはり不安にはなる。しかし、私が唸っていたのは「それだけ」ではない。
「……本当に心配なのですか?」
「え? ええ、まぁね。でも、試験の心配……というよりは、ここまで何事もなく来ているという事に対してちょっと不思議……というか、違和感があるって言う方が正しいのかな」
「違和感……ですか」
「ええ」
私が頷くと、ディーンは紅茶の入ったティーカップを私の前に置く。
「結局、王子との婚約どころかあのお茶会以降。王子との接点もなければ会って話をした事すらない。それを考えると……どうにもね」
そう言って「ふぅ」と一息をつく。
「確かに……ストーリーの流れを考えると、お嬢様は婚約者になっていないといけませんね」
「まぁ、私がストーリーの流れに乗らない様にしていた結果……と言われてしまうと、それまでの話なんだけどね」
しかし、私がこれまでしていた事なんて「出来る限り王子との接点を持たないようにする」という事と「魔法の勉強をする」程度である。
「ですが、それを考えると目下の目的は達成出来た……と考えるのが妥当ではありませんか?」
「それは……そうだけど」
確かに、目下の懸念は『どんな経緯であれ、王子の婚約者になってしまうのではないか』という事だった。
それを考えると、ディーンの言う通り。目的は既に達成している。
「とりあえず、王子の婚約者でなければ主人公をいじめる必要もない。この様な言い方は良くないかも知れませんが、婚約者でもないため、主人公が誰と仲良くしていようがお嬢様が関わる事はなくなるのでは?」
「……そうね」
――まぁ、主人公がどういった立ち振る舞いをするのか……それはちょっと気になるけど。何はともあれ。
「とりあえず、今度の目標は主人公とあまり関わらない様にする事かしら」
「そうですね」
――何が起きるか分からないし。
一応、ゲーム上での「王子の婚約者」という立場になっていなくても、私が『悪役令嬢』という立ち位置は変わらないかも知れない。
それを考えての措置のつもりだ。
「はぁ、それにしても……大丈夫かしら」
「おや、他にも心配事ですか?」
「ええ。受験もそうだけど、友達が出来るかも心配でね」
「……なるほど」
魔法学校で学ぶのは一年間である。たった一年、されど一年。やはり独りぼっちというのは避けたい。
「確かにお嬢様はあまり社交の場に出ませんからね。不安になってしまうのも分かりますが……」
私の心情を理解してくれたのか、ディーンは深刻そうに悩み初め……そして「あ!」と顔を上げた。
「どうかしたの?」
「お嬢様、グレン様がいるではありませんか」
ディーンはそう言いつつ少し取り乱した事を気にして小さく咳払いをし、何事もなかったかの様に紅茶のおかわりをそそいだ。




