第5話
「なぜですか?」
「なぜ……って」
――それは……。
あまりにもディーンが必死な様子で言うので、私は思わず引いてしまいそうになった。
「ほら。あんまり目立っちゃうと、色々と行動しにくいでしょ?」
「……」
そもそも、私はあまり注目を集めたい性格の人間ではない。それを考えると、将来的に注目を集めそうな今の状況は非常にまずいと感じてしまうのだ。
「しっ、しかし」
「まぁ、元々前世ではあまり勉強とかしなかったから、こんな風に言われる事自体むず痒い感じがするけどね」
「……なるほど。要するに照れ隠しですか」
「照れ隠し……というか。うーん」
悩んではみたものの、コレと言った良い表現が思い浮かばなかったため、私は「それでいっか!」と笑うと、ディーンは「それでいいんですか」と半ば呆れ気味に答えた。
「しかし……むしろ目立った方がいいのではありませんか?」
「え?」
「目立った方がお嬢様の行動に対して皆様の視線が集まり、それが証拠になるのではないかと思いまして」
「なっ、なるほど」
――そういう見方も出来るのね。
確かに、そちらの方が将来的に『悪役令嬢』にされてしまう可能性が高い私にとってはありがたい話だ。
――私に悪役令嬢になるそのつもりはなくても……ね。
ひょっとしたら何かしらの『力』が働いて無理矢理悪役令嬢にされてしまう可能性は否定出来ない。
「それを考えると……やぶさかでもないか」
「もちろん、私はお嬢様の意思を尊重させて頂きますが」
そう言ってディーンはさり気なくお茶のおかわりを淹れる。
つまり、使用人であるディーンはあくまで「一つの意見」として言っただけで、主である私の意思を尊重するという事の様だ。
――まぁ、当然そうなるわよね。
「それにしても、その不思議な少年は……伯爵家の方ですか」
「え? ええ、確かそう言っていたわ」
「なるほど。ひょっとしたら、魔法学校に入学されるかも知れませんね」
「……そうね」
確かにその可能性はある。
「それを考えたら、お友達になっておいた方が良いかも知れないわね」
「アルカ様と旦那様はあまり良い表情をされないと思いますが」
そうディーンに言われ、私は口元に寄せていたティーカップの動きをピタッと止めた。
「……やっぱり?」
「はい。同性の方でしたら喜んだでしょうが、異性となれば……内心複雑でしょうね。もちろん、表情は笑顔だと思いますよ?」
「ぎこちない笑顔を浮かべる二人の顔が目に浮かぶわ」
なんて話をしていると――。
「ん?」
ドアをノックする音が聞こえ、ディーンは結界を解く。そうしないと入ってくる事が出来ないのだ。
――こちら側の話し声とか音は外に聞こえないけど、外の音は聞こえるのね。
そう考えると、こういった他の人に聞かれたくない話をする時にはものすごく便利である。
――でも。
私の魔法が『氷』という事もあってか「水魔法」はまだ得意な方なのだが「風魔法」は少し苦手だった。
――まぁ「火」とか「地」よりはまだマシだけど。
それでも基礎は出来ている。ディーン曰く「普通であれば五歳の頃はまだ基礎を学んでいる途中」なのだそうだ。
――この世界で同い年の友達なんていなかったから、全然知らなかったわ。
「失礼します」
「あ、メイ」
部屋に入ってきたのはメイドのメイだ。
「? それは?」
そんなメイの手には封筒が見えた。
「あ、えと。お嬢様宛にお手紙が来まして……」
「差出人は」
ディーンの問いかけにメイはビクッとした様子で封筒の裏を見て差出人を確認する。
「グレン……グレン・アシュタルト様からです」
「!」
つい先程話題に上がった事もあり、私はすぐにその手紙を読みたかった。
「貸してください」
しかし、その手紙の内容などを確認するために先にディーンが先に手紙を見る。
「ふむ……なるほど」
「何々? 何が書いてあるの?」
興味津々に尋ねると、ディーンは「どうぞ」とだけ言ってすぐに手紙を渡す。
「?」
――何も言わない?
こういった手紙をもらった時、ディーンは私に手渡すついでにその手紙の内容まで言うのがいつもの対応だった。
そんなディーンの態度を不思議に思いつつ手紙を見ると……そこには「街にある美味しいスイーツ店でお茶をしませんか?」といったお誘いの内容が書かれていた――。




