第4話
「――なるほど。確かにその可能性はあるかも知れませんね」
「ええ。ただ……」
「ただ?」
「どうして、そんな事をする必要があったのかなと思ってね」
――どう考えても面倒なのに。
私がそう言うと、ディーンは「そうですね……」と前置きをしつつ。
「ひょっとしたら、周りの反応を見たかったのかも知れませんね」
「え? なぜ?」
「それは……もしかしたら、本物の王子は別の場所で見ていて、友人ないし婚約者候補の選定をしていたのかも知れませんね」
「……」
そう言われて私はハッとした。確かにそう言われると、その可能性はとても高い。
――主人公と初めて会った時もそんな感じだったわね。
思い返してみると、主人公とゲーテ王子との出会いは入学式の後に催された夜会での一コマだった。
――確かその時は王子の側近が王子になりすましていたのよね。
ちなみに王子の側近は攻略キャラクターには入ってはいない上に、王子より二歳年上のお兄さん的存在な人物である。
――無愛想……と言うより、どことなく不器用なところが人気で……。
しかし、武道や実務に関してはかなり有能な人物で下手をすると、攻略キャラクターをしのぐ人気だった。
――クール系とはまた違った雰囲気が格好良かったのよね。
「そういえば、そういった変身魔法? は姿形が自由に変えられるのよね」
「はい。ですから、例え王子より体が大きかろうが小さかろうが特に問題はないでしょう」
「ええ、それに――」
「それに?」
そう言いかけたところで、私は「いえ、何でもないわ」と言葉を止めた。
ディーンは「そうですか」と口では言いつつ、どことなく「本当に?」と言いたそうである。
「……」
――心配してくれているのはありがたいけど、下手な言い方をすると逆に心配されそうなのよね。
でも、大きさは関係なくても……言ってしまえば、人の上に別の人の姿を写せる透明な幕を被せていた様な感じだ。
要するに幕を被っているだけなので、代わっているのは「見た目だけ」という事になり、代わっている人が見た目通りの人になっているというワケではない。
――でもこれで合点がいったわ。
何せ私は本を読んで「知識」はあるものの、実際にこの魔法を「見た」というワケではない。言ってしまえばそれくらい、この魔法自体が珍しいモノだとも言える。
「しかし、お茶会が催された時間の間はずっとその魔法を継続して使用していたという話を聞く限り……相当な魔法の使い手だという事は分かります」
「――ディーンもそう思うのね」
ディーンが感心する様に言うと、私もそれに同意する様に頷く。
――ディーンの結界もその変身魔法も四大魔法の属性には当てはまるから、魔法が使えるのであれば誰にでも出来るけれど。
しかし、こういった持続時間がモノを言う魔法で大事なのは「使える」という事ではなく「長く使える」という事である。
「私も使えるは使えるのだけどねぇ」
そう言いつつ「はぁ」と深く溜息をつくと、ディーンは「いやいや」と言わんばかりに首を大きく左右に振る。
「え?」
ディーンの思いも寄らない反応に顔を上げると……。
「お嬢様の今の年齢から考えて、普通は魔法の基礎を学んでいるところなんです。それなのに変身魔法を使える時点でとんでもない話なんですよ?」
「そっ、そうなの?」
驚きながら尋ねると、ディーンは「はい」大きく首を縦に振る。
「そっ、そう」
――しっ、知らなかった。
私としては「前世ではなかった『魔法』が使える」という事が嬉しくて楽しくて……だから勉強に熱が入っていたのは事実である。
――でも、まさかそんなに違うなんて。
「でも、そうなのね」
「そうですよ。下手をすると、魔法学校に通う必要もないほどです」
「ふふ、それは言い過ぎでしょう?」
「いいえ。それくらいです」
ディーンにズイッと顔を近づけられ、私は思わず「そっ、そう?」と言いながら引きそうになった。
「でも……」
「? どうかされました?」
「いえ? それを考えると、あんまりやり過ぎても良くないのかなって思ってね」
「……?」
私がそう言うと、ディーンは「なぜ?」と言い足そうに首をかしげた。




