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27話 蜥蜴男の営む老舗床屋でクラシック散髪、髭剃り、極上シェービング 〜それを見つめるもの〜【6】

【木こり:薬草の翁】



 なんとしても二人のデートを阻止しなければならん。

 だが、例えばここで店に乗り込んで、


「ワシの娘をやらんぞ!」


 なんて息巻いても、モジャモジャは全く動揺しないじゃろう。

 ゆっくり椅子から立ち上がると、その上背は天井に届きそう。

 アリでも見下ろすようにワシをジッと見つめる。

 モジャモジャの髪の間から、この世のものとは思えない眼光がギロリ。

 間違いなくワシは失禁するじゃろう。

 そんなのお構いなしに、モジャモジャの髪の毛が全身に絡み付いてワシの体を空中へ持ち上げると、そこからギューっと雑巾を絞るように捻り上げて、ワシの血と尿のミックスジュースが店内に降り注ぐ。


 みたいな悲惨な未来しか見えんわい。

 結局、ワシができることはクサナギと同じようにモジャモジャを見つめることしかできんのか!?

 しかし対象への心の持ちようは、我が娘とワシで180度違うが。

 そんなコチラの事情など知る由もないサリー。

 モジャモジャの髪の毛を蛇のような瞳で一点に見つめながら手とハサミを動かしていく。


 さすが長い間、床屋の看板を守ってきた二代目。

 その手捌きは見事。

 まるでハサミが残像によって、まるで何本もあるかのよう。

 さながらリザードマン千手観音。

 切られた髪の毛が、ひらひらと踊りながら雪のように降り積もる。

 まぁ、色的に黒いから雪っていうか海藻じゃが。


 そんなこと考えてるうちにサリーはハサミだけでなくバリカンも使いながら、みるみるうちに髪を短くしていくわい。

 まるで蛇が寄り集まっているようじゃった髪は、今や蛇に翼が生えて大空へ飛び立っていったような爽やかな風合い。

 短くなった前髪。

 その下にキリッとした眉毛や情熱を秘めし瞳が、良いバランスで配置されていて、ほほう。

 こうしてみると、なかなかいい男ではないか……いや!


 否否否!!

 待てい待てい!!


 だからって、クサナギの結婚相手にコイツを認めるかというと、それは違う!

 髪が短くなっただけで、体は相変わらずデカいし、それにほら。

 髭よ。

 首の下までマフラーのように髪の毛と同じパティーンのモジャモジャが伸びておるわい。

 あれがあるかぎり、クサナギには指一本……って、あああああ!


 サリーのやつが、雷魔法電動バリカンで男の髭を剃り出しおった!

 思わず耳を塞ぎたくなるようなバリバリと芝を狩るかの如き轟音が、窓を震わせる。

 あっという間に、男の髭は小指第一関節ほどの長さに揃えられ……おっふ。

 なんじゃ、少し前の姿からは想像もつかないほど、雨上がりの森のようなチルな感じを醸し出しておるが、それだけでは終わらない。


 椅子を倒し、仰向けになった大男の髭に泡立てた石鹸をブラシで塗りつけると、折りたたみ式の剃刀をオーバオールの胸ポケットから取り出して、爪に引っ掛けてクルクル回してからパシーンッと音を立てて握った時には、剃刀はV字に開かれた状態で、そこから刃紋を携えた切先をサリーはゆっくりと髭に近づけ……。


 ジジジジジジ。


 枝を縦に裂く時のような音を立てながら、髭を。

 おおう! 

 なんと惚れ惚れするような手際か。

 一方の手を大男の顔に添え、皮膚を伸ばしながら剃刀で一気に剃り上げていく。


 その様子はさながら、岩場に張り付いた海藻をグーっと手のひらで撫で落としていくかのよう。

 しかしながら常人の数十倍はあろうかという髭密度。

 巨大な壁画に一人で挑むように、髭剃りは中々進まない。

 じゃが、そこはサリーも店主としての誇り。

 石鹸泡を継ぎ足し、さらには要所要所で蒸しタオルで顔に水分を浸透させ、ゆっくりと、しかし確実に髭を殲滅して行きおる。


 くうううう、というかサリーの手つきというか所作というか。


 熟練の技が端々に見られ、はっきり言って髭を剃ってもらっている男が羨ましい。

 あの男の代わりにワシが店の椅子に座って、熱々の蒸しタオルを顔に当てて髭を柔らかくしてから、石鹸泡。

 ブラシで泡立てたきめ細かいホイップを髭に塗りつけた後、剃刀でスーッと泡を撫でれば髭が溶けるように剃れて、手で触るとまるで幼き頃のクサナギの肌のようにスベスベで……って、いかんいかん!


 ワシとしたことが、何を心乱されておるのだ!

 愛しの娘クサナギが、目の前の大男に心奪われているというのに、サリーに髭を剃ってもらう妄想をしている場合じゃないわい!


 第一、大富豪になったワシは、こんな下町の床屋で散髪や髭剃りの必要はもうなく、今は自宅に美容師が出張してきて髪の世話をしてもらっているのじゃ。

 もはや、サリーの髭剃りなんぞ、ワシには必要ない。

 必要ないのだが……はあああん!


 いかん!

 腹をすかせているときに、目の前で大盛りチャーハンをがっつかれるような気分だ。

 だが、ここで。


「ワイも」


 なんて店に入っていったら気分を害した男にミンチにされるかも知れないし、そもそもそこで見ているクサナギにワシが屋敷から跡をつけていたことがバレたりなんかしたら、不信感を抱かれ100%警戒。

 これではワシがいくら太子を推しても、


「ストーキングするようなヤツが勧める相手との結婚なんて絶対嫌です。トイレまでついてこられそうだし」


 という感じで、余計に太子を敬遠しそう。


 じゃから、くうううう!

 ここは髭剃りの誘惑に耐えて、このままクサナギと同じように窓に齧り付くしかないのか!?

 これじゃあ、頬を染めて男を見つめているクサナギと同じ。

 いや、違う!

 ワシはあくまで髭剃りに心を動かされているのであって、断じて大男にときめいてなどいないぞい!


 おおう!

 サリーのやつ、スベスベになった男の肌にピチャピチャした液体を塗りつけておる。

 懐かしい。

 いつも髭剃りが終わると、サリーはああやって肌がスースーする乳液のようなものを塗り塗りしてくれた。

 そういえばサリーの指は、はらの方は鱗はないのでプニプニとした餅のような感覚じゃったな。


 なんてことを思いながら、自分で自分の頬を触るもワシの指は砂漠のように干からびておって、むむむ。

 その間に、サリーのやつ。


 タオルをバサバサと払って、男の顔に風。

 それによって乳液を顔にしっかりと馴染ませた後、椅子を戻し、鏡の手前に設置されたシャワー備え付けの洗面台。

 そへ男を導くと、シャワーからお湯を出してジャブジャブとシャンプーで頭を洗う。

 さながら男の姿は、蜂蜜の瓶に顔を突っ込んでる熊さん。


 シャンプーが終わり、男は体を起こしてサリーに頭をババババとタオルで拭いて水気を飛ばし、その後ドラゴンブレスドライヤーで一気に乾かしてから櫛で整えれば……うぐぐ!!


 思わず、目が血走ってしまうわい!

 男は散髪する前とは、まるで別人。

 月とスッポン、勇者と魔王。


 男の髪はサイドと後ろは短く整えられ、少し長めに残された前髪は後ろに流され、なんというか雲ひとつない青空のような爽やかさ。

 そして髭もなく、目鼻立ちも整っているため、男は何というか舞台俳優のようなイケメン雰囲気、いや実際イケメン!

 こんな色男が街を歩いていたら、世の中の女子が放っておかないじゃろう。

 いや、女子だけではない。

 男のワシでも、その甘いマスクと筋肉隆々の体とのギャップに思わず心がときめいて……って、おいおいおい!



【続く】


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