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27話 蜥蜴男の営む老舗床屋でクラシック散髪、髭剃り、極上シェービング 〜それを見つめるもの〜【7】

【木こり:薬草の翁】



 何を考えてるんじゃ!

 相手は、目の前の大男!

 クサナギが想いを寄せている相手で、いわばワシの目の上のたんこぶ。

 そんなやつに娘ともども、目をハートマークにしている場合ではないぞい!

 散髪を終えた男は、サリーに金を払う。

 立ち上がった男は大柄のサリーよりもさらに頭二つ分でかく、天井に届きそうじゃ。


 そして普通の人間がホビットの家から出るように、大男は散髪屋の扉を腰をかがめて潜る。

 外に出た男は、月明かりと店内から漏れる光に照らされ、奇しくも美しく。

 切り立ての髪が風にゆれ、髭ない艶やかな肌が内面から発光しているかの如く白々と輝く。

 その姿に、誘惑されるようにワシ。

 再び心トゥンクしそうになるも、かろうじて踏みとどまるは、ひとえに愛娘のクサナギを誘惑した男に対する怒りと、背中に担いでいる巨大な斧のため。


 なんと大きな斧じゃ。

 大男の身長とさほど変わらない。

 ひとたびブンと横に振れば、杉の木2、3本は一気になぎ倒せるような代物じゃ。

 いや、もちろん振れればの話じゃが。

 ワシじゃったら、持ち上げることもできまい。

 じゃが、目の前の男は違う。


 纏っている甲冑のごとき鎧を内部から押し出すほどの筋量。

 その気になれば、きっとナイフを振り回すようにあの鉄の塊をブンブンするじゃろう。

 全くもって、同じ人間とは思えんわい。

 というか、本当に人間か!?

 もしや、魔族とかそっちの類。

 だとしたら、あの異様に長い髪の毛や髭も納得がいくというか、そりゃそうじゃ。

 髪を切る前の姿。

 ありゃ、到底人間とは思えんもの。


 ということは、サリーの奴は魔王相手に散髪をしていたということで、随分と緊張したことだろう。

 いや案外、この散髪を機に魔王に取り入って、ごまをすりすり。

 魔王軍の領土へ、サリーズバーバーの支店を出そうという魂胆かも。

 サリーめ、意外と抜け目のないやつじゃ。


 って、今は中年蜥蜴男(リザードマン)のことなどどうでもいい!

 問題は、目の前の男が魔王かも知れないということ。

 ということは、なんだ!?

 クサナギが惚れている相手は、人類を恐怖のどん底に落とそうとしている魔王!!

 あばばばばばば!!

 これがテンパらずにいられるか!


 つまりゆくゆくは魔王がクサナギの旦那になるということで、そうなると問題があるわい!

 だって、魔王じゃぞ!?


 これなら、まだ売れないバンドマンと結婚した方がいいまであるわい。

 大企業の社長の身内にろくでなしがいるのは、世の常というか、よくある話。

 じゃが身内に魔王は、流石にライン越えすぎというか、オキナブランドに直接大打撃。

 だって、そうじゃろ?


 オキナブランドの薬草は、今やギルドの冒険者にも国王軍にも愛用者が多数おる。

 連中はいわば、魔王と敵対する側というか、ゆくゆくは魔王を倒したいと意気込んでる側の人間。

 そんな奴らが愛用する薬草の生産者。

 その娘のダンナが魔王なんて、警察がヤクザを採用するようなもので、それが世間に知られた暁には……あああああ、想像するだけで恐ろしい!


 ワシと魔王軍との癒着を疑われ、一気に不買運動や誹謗中傷口コミ、「私が作りました」という生産者の顔写真を魔王にすりかえられるというイタズラが頻発して、ブランド価値は底辺まで下落。

 屋敷も差し押さえられ、愛人も愛想をつかし、ワシは再び貧乏生活。

 卸売業者に蔑まれ、ケツを蹴られる毎日に逆戻り……いやじゃ!!


 もうあんな惨めな生活には戻りとうない!!

 ここはなんとしても、魔王とクサナギの婚約を阻止してやる!

 でも、どうやって!?

 あんな巨大な斧を持ってるやつに、どうやって勝つというんじゃ!?


 あっ!!


 なんてことを考えてるうちに、クサナギのやついつの間にか、魔王の元へ!

 その顔といったら、まさに散髪を見ていた時と同じく恋する乙女。

 キラキラと眩く輝いておる……って違う!

 確かに、クサナギはメスの顔をしているが、顔が輝いてるは別の原因、それは!



「ひっ……!!」



 光の薬草!!

 思わずワシは、叫びそうになって口を押さえる。


 そう、クサナギの手には光の薬草。

 今や国中を席巻してバズりにバズっているオキナブランドの薬草。

 あまりに人気ゆえに値段も高騰しまくっている大人気商品。

 それをクサナギは、まるで花束のように両腕いっぱいに抱えていた。

 ワシから見れば、札束を抱きかかえているようなもの。

 そして、それをあろうことか魔王に手渡しおった!


 クサナギが両手でなんとか抱えていた大量の薬草も、魔王にとってはブロッコリーを握るみたいに片手で収まる。

 そして、その薬草を!

 札束の森のような光の薬草を魔王は、一口で食べてしまった。


 先程の散髪と違って、クサナギに金を払った様子はない。

 ということは、アレじゃ。

 魔王に惚れておるクサナギは、完全な好意で、魔王が喜ぶと思って無料で薬草を渡しおったのじゃ!



 ~~~~~~~~!!



 思わず暴れ出したくなるわい!

 だって、そうじゃろう!?

 あれほどの量の光の薬草を金も取らずに渡すなんて!

 それが太子ならまだしも、よりにもよって人類の敵である魔王に!!


 全くもってはらわたが煮え繰り返る思いじゃわい!

 しかし、もっと頭に血が上りそうな事案は、今後もクサナギがデートするたびに魔王にタダで光の薬草を渡しかねないということ。

 そして、あってはならないが結婚した暁には、光の薬草を毎日大量に食うだろうということじゃ。


 さっきの食いっぷり。

 あれだけの光の薬草をプチトマトでも食べるように一口で平らげたところを見るに、魔王はオキナブランドをかなり気に入っている様子。


 クサナギの旦那になれば、光の薬草が毎日食い放題。

 ギルドをはじめ、国中に出荷するはずだった薬草を一人で食い尽くしかねん!



 ハッ!?



 もしや、これこそが魔王の狙い!?

 光の薬草を独り占めし、人間側の戦力を弱らせ、魔王側だけがバフの恩恵を受けて強くなる作戦か!?


 ええい、だとしたら許せぬ!

 百歩譲って、クサナギのことを愛しているなら、まだ唇を噛み締め、血涙を流しながら祝福ができよう。

 しかし、魔王にとってクサナギとの結婚は、光の薬草を独占するための手段にすぎず、ひとたび薬草を好き勝手できるようになれば、もうクサナギのことなどどうでもいい。

 家にはほとんど帰らず、たまに帰ったかと思えばクサナギが作った飯にケチをつけ、寝床も別々。

 挙句の果てに、世界を滅ぼしかねないような魔法でDVを……ああ、なんということじゃ!


 魔王め!

 純情可憐な我が娘の恋心を弄びおって!

 あんな奴に光の薬草を渡してたまるか!

 ワシの目の黒いうちは、もうこれ以上、光の薬草の葉脈の一つでも食わせてやらん!


 しかし、しかし、どうやって!?

 どうやって、魔王をクサナギから遠ざける!?

 さっきも言ったが、とても腕っぷりじゃアイツに勝てん!


 昔っから喧嘩はからっきしじゃ!

 ワシが得意なことといえば、薬草のことくらい。



 は!!


 そうか、薬草!!

 その手があったああああああああ!!



【続く】

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