27話 蜥蜴男の営む老舗床屋でクラシック散髪、髭剃り、極上シェービング 〜それを見つめるもの〜【2】
【木こり:薬草の翁】
というのも、何を隠そう娘クサナギのこと。
我が娘ながら贔屓目に見ているわけではないのじゃが、どうもませているというか、成長速度が格段に早い。
ワシが切り株で見つけた時、クサナギは本当に生まれて間もない、首も座ってないような赤ん坊だった。
だが、今はどうじゃ。
歳のころ15、6の少女に成長しておる。
そんなに時間が経ったのか?
オキナブランドの薬草を売るのに躍起になって、時間を忘れておったのか?
いや、そんなハズはない。
その証拠にクサナギが赤ん坊だった頃、同じように生まれたてだった隣の家のハル坊なんか、まだハイハイしておる。
ということはわずか1年かそこらのうちに、クサナギは10年を超える年月を重ねたというわけで、そんなデタラメなことがあるかと普通なら腰を抜かす案件じゃが、不思議と「でもクサナギなら……」と納得してしまう。
だって、そうだろう。
人智を超えたスーパーバフ神アイテム、光の薬草。
それにクサナギは包まれておった。
そして、それからというもの彼女が置かれていた周りに光の薬草が出現し、大切に育てていくほど増え続け、今や山自体が光ってるほどに増殖しておる。
ということは光の薬草は、クサナギがもたらしたものと考えて間違いないじゃろう。
食べるだけでHPが限界突破してあらゆるバフが盛り盛りで2回行動のつよつよアイテム。
まるで別世界の神が気まぐれで生み出して、「あ~、調整ミスって強くしすぎちゃったよ、てへぺろ」って舌を出しちゃうような代物。
そんな壊れ薬草をもたらしたクサナギは差し詰め神の使い。
いやさ、むしろクサナギ自身が神と考えても何らおかしな話ではない。
神が人の枠に収まらぬのは自明の理。
人智を超えた成長速度は当然と言ってよい。
むしろ逆に神なのに、今頃になってもハル坊と一緒にハイハイしている方が不自然。
いやはや、そんな神と同居し、食事を共にさせてもらって、あまつさえ光の薬草で人生何回分だってくらい稼がせてもらっちゃって……ったく、ほんとクサナギには感謝してもしきれんわい、ぐひひひひひ。
なんて獲物を目の前にしたオークみたいなゲス笑いをしている場合じゃない。
問題は、その成長したクサナギが美しすぎるということ。
昔から古今東西、神というものは容姿端麗。
絵画にしろ、彫刻にしろ、そこにいるだけで全身が硬直するような飛び抜けた美しい姿で表現されておる。
かくいうワシも幼い頃に教会で女神レナスの壁画を見て、心奪われ毎日のように通い詰めたもんじゃ。
が、しかーし!!
クサナギの美貌といったら、そのレナス壁画を余裕で棒高跳びで飛び越えておる。
透き通るような白い肌。
クッキリとした目鼻立ちに桜色の唇。
そして何より腰まで伸びた絹のごとき艶やかな黒髪。
こんな美しい女が、この世にいたのか!
ワシの囲っている愛人なんかクサナギに比べたら月とスッポン。
バアさんなんか……おっと、これ以上はやめておこうかの。
とにかく、最近はワシもクサナギと喋っているとまるで中学生のようにドキドキしてしまうし、すれ違ったクサナギの残り香をクンクンして、「はっ、いかんいかん! 娘相手に欲情するなんて!」と我に返って池の水に頭を突っ込むという事態が多発。
親のワシでさえそんな体たらくだから、世に蔓延る男性諸君はたまったもんじゃない。
ひとたびクサナギが街へ出ると、美しさが故に男たちがみな振り返る。
いや、振り返るなんて生やさしいもんじゃない。
例えば、馬車に乗っていた男が歩道を歩くクサナギを見た瞬間、まるで貴族のダンスパーティーに呼ばれたゴブリンのようなアホヅラになって心を奪われてしまい、手綱の操作を誤ってマーケットの屋台に突っ込んで、いくつもの屋台が台無しに。
普段なら、店主たちが結託して怒り心頭で怒り出すところだが、そうはならない。
店主の親父たちもクサナギに見とれているからじゃ。
「おお、なんと美しい! どうか、このフルーツを!」
「いや、この干し肉をお召し上がりください! お代? そんなの要りません!」
「テメェ、抜け駆けしてんじゃねぇぞ!」
なんて口々に言って、店の商品を献上。
マーケットは大混乱。
そこへカップルなんかが居合わせた日には事態はさらに悪化。
男の方がクサナギを見て、
「な、なちゅう美しい生物を見せてくれたんじゃ。あれに比べたら隣にいる女は、魔物じゃ! 一週間風呂に入ってないオークじゃ!!」
なんて言い出して、当然相手の方は激怒。
あちこちで掴み合いの喧嘩が同時多発し、街は大混乱に陥った。
【続く】




