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27話 蜥蜴男の営む老舗床屋でクラシック散髪、髭剃り、極上シェービング 〜それを見つめるもの〜【10】

 

【木こり:薬草の翁】


 HPを減らし、さらにマイナスバフ満載の薬草を一口でも魔王に食わせればこっちのもんじゃ。

 魔族の頂点といえど、ワシの長年の鬱屈した日々の結晶である闇の薬草を体内に取り込んだ暁には、嘔吐、痙攣に伴い、さまざまな合併症を発症。

 視力を失い、体は溶け始め、見るも無惨な姿に。

 そうしたらクサナギも流石に冷めるというか、そもそもの話、闇の薬草を食べたことで魔王が命を落とすかもしれない。


 だははははは!

 そうなりゃ、儲けもんじゃ。

 死んでしまえばクサナギと結婚することは出来ないからのぉ。

 そんでもって魔王を葬り去ったワシは英雄。


 ますます名声に磨きがかかって、伝説に!

 そうなりゃ、さらに屋敷も大きくなるし、別荘、ご馳走、愛人。

 まさに酒池肉林の日々を楽しめるというわけじゃ……うひひひ!


 って、歯茎見せとる場合じゃないわい!

 笑うのはまだ早いぞい。

 そんな夢の生活も、魔王が闇の薬草を食わなきゃ、元の木阿弥。

 ふはははは、だが大丈夫。

 そのためにも、長い時間をかけてクサナギに変装したのじゃからな!


 昨晩、クサナギからの薬草を魔王は躊躇なく食っておった。

 ということは、クサナギの格好をして「光の薬草」と言えば、たとえそれが闇の薬草であろうと魔王は餌付けされた野良犬のようにモシャモシャ食べるハズ。


 まさに完璧な計画。

 全くもって、ワシの天才的発想には自分で驚くばかいじゃわい。



「おほほほ、さぁ魔王様! 光の薬草を思う存分お楽しみください、きゃるん!!」



 さぁ、受け取れ!

 闇の薬草を食べてもがき苦しむがいい!


 ……。


 ……。


 あれ?

 なんじゃ?

 こっちはウルウルとした上目遣いのあざといポーズで、薬草を差し出してるのに、魔王のやつ。

 硬直魔法でも食らったように仁王立ちで、微動だにしない。

 な、なぜだ!?

 もしやワシの超絶美麗完璧変装がバレたか!?

 それとも、ワシが持っている薬草の異変に感づいた!?

 たしかに、くんくん。


 闇の薬草は、呪いのアイテム満載の汚水に浸していたもんだから、使い古した雑巾のような、はたまた中年のおっさんを狭い部屋に何人も鮨詰めにしたような強烈な異臭が漂っていて、思わず顔を背けたくなるわい。

 はっ、まさか!

 さっき街を歩いてる時、露骨に顔を背けたり、嘔吐したりした連中はワシの完璧な女装が美しすぎる故にそうしていたのではなく、薬草が臭かったから!?


 だとしたらマズい。

 ワシの持ってる薬草が、とんでもないパチもんだとバレたら計画が全て水の泡。

 それどころか、偽物の薬草を皮切りにワシの正体がバレて、消し炭のようにこの世から消滅。

 魔王は、そのままクサナギ(本物)を手込めにして、光の薬草をバイキング、そのまま世界を征服……ああああああ、いかんいかん!


 ここは、なんとしてもこのクズ薬草を光の薬草と信じ込ませなくては!



「いや~、とれたての薬草は独特の匂いがしますわねぇ。でも良薬口に苦がし、マズいもう一杯というように、これこそ光の薬草本来の風味! さぁさぁ、ドーンといっちゃってくんねぇ! 薬草食いねぇ!」



 って、いかんいかん!

 焦るあまり、口調がクサナギとかけ離れてしまったぞい。

 魔王のやつ、怪しんでるんじゃ……って、あれ!?


 いない……ハッ!!

 ワシの肩口に何かモジャモジャしたものが乗っかっている!

 これは……髪!

 魔王の髪じゃ!


 いつの間にか魔王がワシの背後に、それもピッタリとくっつくように立っているもんだから、長くウネウネした髪の毛がシダ植物のようにワシの頭の上から垂れてきており、差し詰めカツラの上にさらにカツラを被ってるような妙な感じに。



「うわっ、気持ち悪っ!」



 もはや完全に素が出てしまったが、そんなことお構いなしな様子で魔王。

 ガバッ!

 急にワシの体を抱き抱えおった!


 そして、タタタタ!

 そのまま走り出しおった!


 な、何事だ!?

 魔王のやつ、ワシを連れていったいどこへ行く気だ!?

 はわわわわ、丸太のようにぶっとい腕で抱きかかえられて……こ、これは!

 俗にいうお姫様抱っこというやつか!?


 トゥンク。


 やだやだ!

 ワシったら、何をトキメイておるんじゃ!?

 相手は憎き憎き魔王じゃぞ?

 いや、しかし今のワシは身も心もクサナギになりきってるのだから、魔王に抱っこされて心躍らせるのは別に間違いではないのでは!?


 ああ、なんだか魔王のやつが不思議とイケメンに見えてきた。

 よく考えたら胸に持ってる薬草はブーケのようだし、ワシったらまるで、王子様と結婚するお姫様みたい、きゃるん!


 冷静に考えれば、相手は王子様じゃなくて魔王だし、持っているのはブーケではなく闇の薬草。

 そしてワシはお姫様ではなく、ただの女装をしたジジイなのだが、魔王に抱きかかえられるなんてあまりにも現実離れしすぎていて、つい頭が沸騰し、メルヘン思考になってしもうた。

 ていうか、よくよく考えたら、クサナギとの出会いからして現実離れしすぎ。

 あんな山奥に光の薬草に包まれて、赤ん坊が放置されていたのも妙だし、その後の展開。

 光の薬草の躍進、成り上がり街道、魔王との遭遇。


 勇者や王族さえ体験できないようなエピソード欲張りセットが、ワシの人生に降り注いでおり、もしや実の所ワシは、とうの昔に死んでおるのではないか。


 例えば、クサナギと出会った日に倒木により、意識不明の重体。

 今の状況は、ワシが昏睡状態で見ている夢のようなものではないか?


 ああ、なんだか意識が遠のいていく。

 これはワシが昏睡状態である証か。

 はたまた、昨日夜鍋をしてクサナギに変装したため寝不足。

 プラス魔王のぶっとい腕でゆりかご状態による睡魔か!?


 もう……何も……………わからぬ。



【続く】

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