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27話 蜥蜴男の営む老舗床屋でクラシック散髪、髭剃り、極上シェービング 〜それを見つめるもの〜【9】

【木こり:薬草の翁】




 このパン屋の裏を通れば、ブルータスの床屋がある裏路地への近道じゃ。


 貧乏時代、卸業者との取引に遅れないために覚えた道が役立つとは、まったくもって皮肉なもんじゃわい。

 よし、裏路地に着いた。


 おる!


 おるおるおるおる!!

 従者の言う通り、魔王のやつめ、ブルータスの床屋の前に!


 相変わらず馬鹿でかい体。

 昼間だと余計に目立ちやがるわい。

 そして、一体どういうからくりじゃ!?

 魔王の髪と髭が伸びておる!

 昨日、サリーの店でバチバチに短くした髪の毛、そしてツルツルにそった髭!


 それがちょっと伸びたとかそういう次元ではなく、まるで数年放置したというくらいにモジャア!!

 そう昨晩、サリーの店で初めて魔王を見た時と同じくらいの毛量に戻っておるではないか!!


 なぜ!?

 一晩しかたってないのに、なぜ髪と髭が元通りに!?

 時間転移の類の魔法でも使っておるのか!?

 目の前にいるのは、まさか昨日の髪を切る前の魔王!?


 ううううう、とにかく怖い!!

 髪を切った後ならまだ表情が見える分、何を考えているか想像がつくが、こうも顔面が髪と髭まみれだと全く心が読めん。

 下手なことを口走ったら、斧をフルスイング。

 裏路地に女装をしたワシの首が転がるのかと思うと、震えが止まらん。


 ええい、しかし!

 ここで行動しなければ、魔王に光の薬草を独り占めされてしまうし、せっかく時間をかけてたクサナギへの変装が無駄になってしまう!



「は、ハァイ!!」



 意を決してワシ、魔王に声をかける。



「いや~ん、昨日ぶり~! 別に従者にストーキングさせてたわけでもないのに、こんなところで会うなんてマジ偶然って言うか~、鬼エモい! これも運命かしら、なんてキャッ! 言っちゃった、きゅるん!!」



 くらえ!

 渾身のぶりっ子ポーズ!

 これで魔王も油断して、隙を見せるハズ……って、ありゃ?


 ズズズズズズ!


 魔王め、相変わらず直立不動。

 それどころか、髪がユラユラとうねり始めて……あれ、もしかして怒ってる?

 まさか、ワシの完璧な変装がバレたか!?

 いや、落ち着んじゃ。

 ここで動揺したら、計画が台無しになってしまう。


 大丈夫。

 長い時間をかけてメイドたちに施してもらったメイクでワシの顔は、完全にクサナギと瓜二つ。

 そして娘の癖や仕草は、共に暮らしてきたワシが一番わかっておる。

 だから自信を持って、ここは突き進むのみじゃ!



「きゃるるん! ここで会ったのも何かの縁ですわね。と言うことで、魔王様。この出会いを記念して、オキナブランドの光の薬草。今朝摘みたての100%オーガニック薬草を差し上げますわ!」



 バスケットから、薬草を取り出して昨日のクサナギよろしく花束のようにして魔王へ。

 しかし肝心の薬草は、いつもギルドなどに出荷しているそれとは違って、眩い光を放っておらず、むしろ逆。


 まるで馬糞のようにドス黒く変色していて見るからに体に悪そうな色味。

 さらに二日酔いのオッサンの頭皮みたいな異臭を放ち、ハエがブンブン集っておる。


 そう、感のいい奴は気づいておるじゃろうが、いま取り出したのは光の薬草ではない。


 これは、いつも光の薬草を収穫している所とは別の、ワシしか知らない穴場の山。

 といっても、質のいい薬草が取れるかと言うと、むしろ逆。

 日の光が届かず、亡霊やアンデッドが彷徨っているような鬱蒼とした森には沼地が点在し、そこに生えている薬草は紫色に変色していて、水気がなくシオシオ。

 もはや一口食べれば逆にHPを減らされるような低品質の薬草じゃ。


 そのクズ薬草を、それが生えている沼地の水。

 モンスターの死体が平気で浮いてるような水に一晩漬け込み、さらにそこにゾンビの目玉、土ミミズ、カムチャッカ唐辛子etc、おおよそ罰ゲームでしか用いないような呪いのアイテムをこれでもかというくらいぶち込み、プツプツと泡と煙が出るほど発酵させた言うなれば、闇の薬草!

 一口食べれば間違いなくHPを減らすどころではない、光の薬草と逆。

 毒、痙攣、麻痺。

 ありとあらゆる状態異常を誘発し、攻撃力、守備力を大幅に下げるバフも付与!


 極貧時代。

 薬草が売れないストレスから、マズい薬草を試作しては野良モンスターに食わせ、のたうち回る姿を見てイヒヒとほくそ笑んでおった。

 全くもって情けない話ではあるが、今になって黒歴史である闇の薬草が日の目を浴びるとは。

 まるで生前、世間からは評価されず、死後に作品が世に認められた芸術家のような。


 かつての燻っていた日々は無駄ではなかったということか……って、今はそんな感傷的な気分に浸ってる場合ではない。



 とにかく魔王の野郎に、この闇の薬草を食わせる、食わせる、食わせる!!

 これこそワシの計画じゃ!!



【続く】

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