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27話 蜥蜴男の営む老舗床屋でクラシック散髪、髭剃り、極上シェービング 〜それを見つめるもの〜【8】


【木こり:薬草の翁】



翌日。



「旦那様。ヤツを見つけました。今しがた、裏通りの床屋から出てきたところです。うっぷ」



偵察に行かせた従者が馬車に戻ってきた。

顔面蒼白、額からは脂汗。



「それで、それで?」

「今しがた裏通りの床屋から出てきたところです。おえええええ!!」



ついに従者は、吐きおった。

まぁ、無理もない。

あの恐ろしい魔王のオーラを見て、まともに精神を保っておれる方が異常じゃ。

ワシとてこれからやることを考えると、恐怖で頭がおかしくなりそうになる。

しかし、臆してはおれん。


これもクサナギのため、果てはワシの未来永劫語り継がれるであろう伝説を守るためじゃ!



「では、行ってくるぞい」

「はい、いってらっしゃいませ、オキナさま」

「何を言っておる。今のワシは、ク・サ・ナ・ギ・じゃ・ぞ? きゅるん、はぁと」

「うおえええええええ!!」



ウインクをしたワシを見て、従者は再び嘔吐をかます。

やれやれ、魔王がトラウマになっているのはわからんでもないが、こうして面と向かって吐かれると、まるでワシの顔が気持ち悪いのではないかという疑念が生まれてくる。


いや、そんなはずはない。


だって、ほら。

手鏡を取り出してチェック。

完璧な変装じゃ。

白粉を塗りまくった顔、雪原のような白を引き立てる唇の紅、頭に被った黒髪カツラ。

どこからどう見ても、ワシは娘のクサナギじゃ。



街を早歩きで、ワシは魔王の元へ急ぐ。

すれ違う連中、すれ違う連中、ワシの顔を見るや、顎を外したり、物陰に隠れたり、発狂したように訳のわからないことを叫びながら道路に飛び出して馬車に轢かれたりと、もうわかりやすく大混乱。


さすが世の男という男、全てを虜にすると言われるクサナギに変装しただけはある。

本物とまでは行かずとも、ジェネリックで十分な破壊力。

よし、これで魔王も……。



「ねぇねぇ、ママー! 見て、あのお爺さん、女の人の格好してるよ、変なのー!!」

「しっ!! 目を合わせちゃダメよ!!」



むむっ、どこのガキだ!?

この完璧な変装にケチをつけるとは……よぅし、こうなったら。



「ねぇねぇ、アタシ……綺麗? きゃるるん♪」



ぶりっ子モード100%で、腰をクネクネ、投げキッス。



「ぎゃあああ、ママー! こっちにくるよおおおお!!」

「ひいいいいい!! 命だけはお助けくださいいいいい!!」



ハハハ!!

ワシの美しさにひれ伏したか。

母親もガキを抱えて逃げていきおった。

おっといかん、こんなところで油を売ってる場合じゃないわい。

ワシが売るのは、薬草じゃ! つって。


従者が言うに魔王のやつは、裏路地の床屋の近くにいるんじゃったな。

確か裏路地の床屋っていうと、獣人のブルータスのところか。

昨日はサリーの床屋に行ってたくせに、今日は別の床屋!?

どういうことじゃ!?


はっ、まさか!

リザードマンのサリーに、獣人のブルータス。

魔王はこの街に住んでいる魔族の血族を仲間に引き込んで、魔王軍の戦力にしようという魂胆か!?

奴らは、今や普通に人間社会に溶け込んでるとはいえ、その根幹には残酷なモンスターの血が流れておる。


魔王が焚き付ければ、カードを裏返すように簡単に人類へ反旗を翻すじゃろう。

そして魔王がクサナギと婚約した暁には、光の薬草を自らの思うがままにできる。

回復だけに止まらず、数多のバフを与え、戦闘能力を格段に向上できる神アイテム。

それを魔物たちが食べたら、それはもう潜在能力がブーストされちゃって、人類にとって悪夢以外の何者でもない戦闘集団が出来上がるというわけじゃばばばばばば!


魔王め……!


ワシにとって世界を席巻し、歴史に名を残すためのアイテムを横取りして自らの世界征服の足掛かりにしようとは、許せん!!

なんとしても奴の暴走を止めてやる……って、いかんいかん!

意気込んだら、顔が怖くなってしまうわい。


なんたって、今のワシは可愛い可愛いクサナギなのじゃからな。

笑顔笑顔、きゅるん。



「「「ゔぉええええええええ!!」」」



通行人が芋づる式で吐き出すが、かまっとられんわい。

今のワシにはクサナギを、そして世界を救う使命があるのじゃ!


急げ急げ!

早くしないと世界が終わっちまうぞい!




【続く】

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