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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第4章
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18.彼女にお願い。――カークラント視点



 はい、こんにちは~! 俺の名前は、カークラント・オシフ。シューミナルケア帝国皇太子、エリュレアール殿下の近衛騎士なんかをしているよ!


 カーヤは本当に面白い子だよね~。ハティッドなんかは最初は警戒していたみたいだけど、俺は全然そんなことはなかったよ。初めて顔合わせしたときに、あ、この子は良い子だって思ったんだ。俺の感は結構当たるんだよ~。


 カーヤはよくふらっと旅に出ては城に帰って来るんだけど、その時々のお土産が本当に面白いんだ~。すっごく高価で貴重とされている辺境の果物とか、悪魔の使いだと言われている海の生き物とか、食用とされていない植物の根っことかね。それを厨房に持ち込んでは、料理人達と言い合いしながら調理しているみたいだよ。

 最初は恐々と料理していた料理人達も、カーヤの画期的な調理方法と、出来た料理の意外な美味しさに、今ではカーヤが戻って来るのを楽しみにしているしね。


 他にも、エリュレアール殿下はもとより、ナディア皇女殿下も、ラディスリール皇子殿下も、カーヤが帰ってくるととても楽しそうに纏わりついているよ。珍しいお土産に喜んだり、旅先での出来事を聞いたり、あと城内でカーヤが彼女独特の変わった発想で起こす騒動なんかを楽しんでいたりもするんだ。もちろん俺もね~。


 ただ、変な事件を起こしては俺を巻き込むのは止めてほしいよね。この間なんか、城の中の隠し部屋で見つけたとかいう、変な魔術のかかった本を持って来てさぁ、それを俺がついうっかり開けちゃったんだ。そしたら、城中の人が、心の中で思ってることが素直に口に出るようになっちゃってね。

 俺、あんなにカーヤが毒舌だとは知らなかったよ~。あと、スケイアスがたくさん喋るところも初めて見たよ。すんごい気遣いに満ちた甘い台詞ばかり言ってた! 言われた侍女は顔真っ赤にしてたし。それから、ハティッドもよく話してたけど、カーヤいわくデレ(?)が五割増しだったらしいよ~。カーヤが床を転がりながら悶えてた。「は、は、ハティ様ああぁぁ」って、変な呼吸してたよ。エリュレアール殿下は、根性で口を閉ざしてたし。色々言えないことがあるんだろうなぁ。俺? 俺はいつもと変わんないよ~。すぐ口に出ちゃうからね。

 カーヤの頑張りで、騒動は半日くらいで片付いたけど、城の色んな所で険悪になったり、カップルになったりする人達が続出したんで、人によっては、思ってることと全然関係ないことを言ったり、反対のことを言ったり、もしくは思ったことをそのまま言ったりと効果もばらばらだって説明することで、何とか収拾したんだよ。俺達もフォローに駆け回ったしね。あれは本当に大変だったよ~。カーヤと一緒に、ハティッドにしこたま怒られたしねぇ。何で俺まで?


 そうそう、カーヤの起こす騒動を楽しみにしているといえば、ハティッドも彼女が帰ってくるとどこか浮かれた雰囲気を漂わせるんだよね~。カーヤはハティッドのことをクールドライ氷結! だとか糖質ゼロ鬼畜! でも好き! なんてよく喚いてるけど、ハティッドを知っている奴らからしたら、カーヤは十分ハティッドに好かれていると思うんだ。ハティッドは使えない奴は嫌いだし、使えても信用できない奴はもっと嫌いで決して傍に置かないし。カーヤにあれこれ言いつけている時点で、かなり心を許していると言えるんだよね。


 そういえば、カーヤが以前持って帰ってきた‘サツマイモ’っての。あれ俺も味見させてもらったけど、調理法も簡単で甘くて美味しかった~。それをカーヤはハティッドに許可をもらって、城でハーブなんかを育てている小さな畑に植えていたけど、カーヤいわく、カーヤの国では‘サツマイモ’は養分の少ない土地でも育つもので、育て方も簡単な作物なんだって。この‘サツマイモ’が同じ性質かは分からないけど……とカーヤは言葉を濁らせていたけど、俺は見逃さなかった。ハティッドの目が輝いたのを!

 いくらうちの国が肥沃な土地に恵まれているとはいえ、やっぱり地域によっては痩せてて作物が育ちにくい場所もあるんだよね。その土地に適した作物の調達や開発は長年の課題だったけど、カーヤのおかげで解決するかもしれないんだ~。‘サツマイモ’の美味しい食べ方や調理法、お菓子の作り方なんかもカーヤが料理人達に教えてくれたから、うまくいけば我が国の特産品の一つになるかも知れないよね。



 あ、それでそれで、今回カーヤが連れて帰ってきた砂漠の亡王国の生き残りであり、王家の血を引く闇属性の持ち主の男の子のことだけど、エリュレアール殿下やハティッドと話し合って、ついでに皇帝陛下や宰相様のご意見を伺った結果、しばらく城に住んでもらうことになったみたい。

 それは亡王国の生き残りってことも重要だけど、何より現在世界中で確認されている中で二人目の闇属性の持ち主――一人目はカーヤだけどね――であり、闇の精霊の守護を受けている者だからね。彼を取り込んで、その力を利用したいと思う者は数えきれないほどいるだろうから、そんな輩から彼を守るためにもってことだね。


 そういえばさぁ、カーヤがあの闇属性の男の子を連れて帰ってきたとき、冗談で俺に「この子はあなたの子よ!」なんて言いだした時はすごく焦ったよ~。一瞬、あれ? そうだっけ、なんて呆けてたら、多方向から冷たい視線に襲われるし、ある一部からは刺すような強い視線を感じるし……! カーヤがすぐに本当のことを言ってくれなかったら、俺この国にいられなかったかも! ひどいよね~!



 その少年のことだけど、城に連れて帰って来てからも一月くらいはいつも心を彷徨わせている感じで、何もできない状態だったんだ。誰の声にも反応しないで、周りが手を貸さないと食事も睡眠もしないで、ぼんやりと部屋のベッドの上に座り込んでたよ。でも、カーヤから少年の事情を聞いてた俺達は、ゆっくり見守っていこうってことにしてたんだ~。


 少年の世話は主にカーヤがしてたけど、さすがに一人では無理があるからって、エリュレアール殿下がナディア殿下の乳母だった人に手を貸してもらえるように頼んだり、少年付きの侍女を用意したりと気を配ってたね。カーヤと少年の様子も、時間が空けば見に来てたし。

 でも、意外と――っていうのは失礼だよね――少年に何かにつけて構ってたのはナディア殿下だったんだ~。習い事とか公務が無い日は少年のところに来て、返事が返らないことも気にしないで、いろいろ話しかけたり、本を読んであげたり、庭へ連れ出したりしてた。兄弟の中では自分が一番末だから、弟が出来たみたいで嬉しかったのかもしれないね。


 途中、夜中に少年が泣きながら暴れ出して、それをカーヤが宥めたり、あまりにも少年に反応がないものだから、あの砂漠の国から連れ出さない方が良かったんじゃあ……なんて悩むカーヤを励ましたり、なんてこともあったよ。あの頃のカーヤは本当に育児に悩む母親みたいで、相談を受けて一緒に悩むエリュレアール殿下も微笑ましかったな~。



 そんなこんなで、少年がシューミナルケアに来て一月が過ぎた頃、僅かながらに少年が反応したんだ。それは目線を人に向けたり、「……あ……」と小さな声を発する程度だったけど、今まで人形のように微動だにしなかったことに比べれば、劇的な変化でね。

 それを見たカーヤとナディア殿下は抱き合って泣きながら喜ぶし、傍にいた侍女や乳母も手を取り合って涙零してたし、カーヤ達の泣き声に慌てて駆け付けたエリュレアール殿下や、俺達近衛騎士も盛大に歓声を上げたよ~。


 その日は、陰ながら応援してくれていた厨房の料理人達の計らいで、たくさんの料理と酒が用意されて、ちょっとしたパーティーみたいになってた。皆、良かったなぁ! ってカーヤと少年を囲んで騒いで。……ただ、集まった人達の中に、どことなく皇帝陛下と宰相様に似た人が酒を抱えていたような気がしたんだけど……気のせいだよね~。そのことを後でスケイアスに話したんだけど、スケイアスは黙って目を逸らしてた。……ま、まさかね。


 それからは少年も徐々に自分で何でもするようになっていって、少しずつだけどお話もするようになったよ。あ、少年の名前はねぇ、エギーユって言うんだって~。長い家名とかもあったらしいけど、長いこと名乗ってなかったから忘れちゃったんだって。でも、自分の名前だけは母上が付けてくれた大切なものだから、絶対に忘れないよ、って言ったエギーユの顔がねぇ、すごく寂しそうで悲しそうで、俺カーヤと手を握り合って泣いたね。その後二人してエギーユにぎゅーっと抱き着いたけど。


 あとね、エギーユの気持ちが落ち着いてから、少しずつ外にも出るようになったよ。今まで城の庭には散歩で出てたけど、カーヤがもっと色んな景色を見てほしいって、帝都の外へも連れ出してた。空飛んで行って帰ってあっという間だし、カーヤがいれば大抵の魔物は敵わないだろうからって、時々ナディア殿下や長期休みで城に帰ってきたラディスリール殿下も一緒に出掛けてた。ちゃんと俺かスケイアスも護衛として付いて行ってるよ。何かあったら大変だもんね。



 そんなこんなでエギーユがシューミナルケア帝国に住み始めて、そろそろ一年が経とうとしてるんだけど、んふふ、最近ねぇ、エギーユとナディア殿下が本当に仲が良いんだ。本当の姉弟みたいって言うか、でもちょっと違うんだよね。少し前までカーヤにべったりだったエギーユが、ナディア殿下の前では紳士に振舞うよう頑張ってるみたい。

 もしかするともしかするんじゃない? って、二人を囲む者達は日々暖かく見守ってるよ~。シューミナルケア帝国は、他国と婚姻関係を結ばなければ維持できないような国ではないし、皇帝陛下も大らかな方だから、結婚は個人に任せるって言ってるし。


 エギーユは亡国の王家の血筋の者で、世界に二人しかいない闇属性の持ち主。エリュレアール殿下の考えでは、そのうち身元の保護のため領地と爵位を与えられるんじゃないかって言われてるし、反対する人はいないんじゃないかな。あ、一部の貴族とかは文句言いそうだけど、その辺はおそらくハティッドとカーヤ、そしてエリュレアール殿下が抑えると思う。まあ、今はまだ幼い恋を全力で見守ってるんだ~。

 カーヤとしては、僅かな時間だけど大切に育てて(?)きたエギーユの親離れが寂しいようで、エリュレアール殿下に慰められてた。もうね、その姿がまんま夫婦! って感じでね。こっちも、俺や側近の者達は扉からそーっと見守ったよ。



 最初の頃、カーヤが連れて帰ってきたエギーユを城で面倒みるってことになった時、カーヤはそんな生活費が! とか税金を! なんて恐縮しっぱなしだったけど、気にする必要ないのに~。


 以前カーヤが城の調理場に、いつもお世話になってるからって持ち込んだ、時間の進行を止める闇魔術のかかった保存箱。十年っていう限りはあるものの、その間は生き物を除けばどんなものでも入れた時と同じ状態で保存できるという優れもので。あれには調理場の皆驚くと共にとてもありがたがってたよ。肉とか魚のような生ものは、季節によって保存が難しいからね~。カーヤが持ち込んだ珍しい魚介類も、保存箱で大人しく持ち主が帰って来るのを待ってるんだ。


 それで、その保存箱に目を付けたハティッドが、職人に作らせた大量の箱に、カーヤとエギーユに闇の魔術をかけさせていた。エギーユの方は最初はうまくいかなかったようだけど、カーヤと闇の精霊のフォローで完全な性能のものが作れるようになってたんだよね~。

 毎日毎日闇魔術をかけさせられて、「ハティ様のオニー! ブラック!」ってカーヤは叫んでたけど、あれ、ハティッドが認めた誠実な商人から貴族を中心に売られて、今やカーヤもエギーユも今後の人生をかなり贅沢に一生遊んで暮らせるだけのお金を得たんだよ。そのお金はもちろんそれぞれの個人名義で貯金されてるから、いつカーヤにそれを教えようかタイミングを計ってるんだ~。ふふふ、どんな反応をするか楽しみだなぁ。ハティッドも珍しくにやりと愉快そうな笑みを浮かべてたしね。


 まあ、もともとエギーユに関しては、エリュレアール殿下が自己資産で面倒みるって話も上がってたんだけど、お金に関してはもう心配なさそう。追加で言うなら、あの闇魔術の保存箱、すごい大反響で注文が殺到しているらしいよ。今後もカーヤとエギーユの忙しい日々は続くかもね~。




 ねえ、カーヤ。正直言うと、俺はカーヤにこの国にずっといてほしいと思ってるんだ。それは城で働く者達で、カーヤと接したことのある人達はみんなそう思ってるよ。カーヤはいつも笑顔で気遣い屋さんで、誰に対しても丁寧で魔術を出し惜しみせず色々と助けてくれるし、カーヤの起こす騒動はいつもどこかおバカで面白いしね。カーヤの行動を見てると暖かくて微笑ましい気持ちになるんだ。だから、ずっと城にいてくれたらなぁって思う。

 でも、カーヤが何かをするために必死に頑張ってるっていうのも分かってるから、カーヤを悩ませないように決して口にしたりはしないけど。


 それにほら、俺はさ、エリュレアール殿下の部下だけど、やっぱり友達だから、殿下には本当に好きになった人と幸せになってほしいんだ。殿下がカーヤを恋愛の意味で好きなのかはまだ分からないし、殿下も口にしたりはしないけど。

 でもさ~、傍から見てるとその表情の柔らかさや、カーヤが不在の時はいつも気にしてたり、殿下が直接手を出さなくてもいいところまで率先して手を回そうとしたり、その一つ一つがどこか甘やかでさぁ。カーヤが初めてこの城に泊まった時に使った客室も、今はすっかりカーヤの部屋みたいになってて、調度品が少しずつカーヤが落ち着けるように変えられていること、気づいてるかなぁ。それに、カーヤが好きだって言った料理の食材も、いつカーヤが帰ってきてもいいように、常に保存箱にたくさん詰められていることも。


 今でこそその憂いは無くなったけど、ご自分の魔術の属性や生い立ちのことで、エリュレアール殿下はずいぶんと悩んでこられた。でもそれを表に出すことも許されなくて、一人で全部抱えて、すごく辛そうだったんだ。だから、殿下には絶対に幸せになってほしい。


 カーヤの方はどうなのかな。やっぱり目的第一で、そんなの考える余裕もないのかもしれないよね~。でも、カーヤがエリュレアール殿下をそんな目で見れないって言うなら、その時はすっぱり諦めるよ。無理強いする男は嫌われちゃうからね。

 けど、その気になった時は思いっきり任せてね。根回しの準備は出来てるし、邪魔者の排除も城の者一丸となって頑張るからね! 心配することなんて何にもないよ。


 あ、身分のことは気にしなくていいからね!

 カーヤが闇の精霊に聞いた、昔シューミナルケアに居たアイゼっていう闇属性持ちの子のこと。それって、カーヤが初めて城に来たときに見た亡霊の、アイゼルリーテ側妃が側室になる前の名前だったよね。彼女が闇属性持ちだったなんてことはどこの記録にもなくて、でもそんな希少属性持ちが帝国内に――ましてや妃として――居たってことを記録に残さないなんておかしいってことで、おそらくそのことは知られてなかったんじゃないかって、ハティッドは言ってた。もしかしたら、エリュレアール殿下の時みたいに、本人も知らなかったのかもしれないよね。


 それでね、ハティッドが言うには、彼女が生きてた時代は今よりももっと身分が重視されてて、アイゼルリーテ側妃は平民出身だったから正室になれなかった。それでも皇帝陛下に寵愛されてたから、後宮内で他の側室達にひどい嫌がらせを受けてた可能性もあるんだって。昔の後宮内の争いって、本当に苛烈で陰湿なんだ~。俺、ハティッドに教えてもらって、震えが止まらなくなったもの! 亡霊よりよっぽど恐ろしいよね。ブルブル。

 でももし、彼女が闇属性持ちだって知られていれば、皇家や貴族は特に魔術の才を重視するから、身分に関係なく正室になれたかもしれないって。けど今頃になってそんなことが分かるなんて、なんかすごく悔しい気持ちになったんだ~。


 今は皇妃になるのに、身分なんてほとんど重要視されてないよ! 現皇帝陛下の唯一の妃の皇妃様も、下位の貴族の出身なんだよ~。でもすごく立派な方で、誰もそんなこと気にしないんだ。だから、カーヤもどーんと構えといてよ。



 だからさ、いつでも帰っておいでよ。カーヤの居場所はここにあるんだからさ。エリュレアール殿下をはじめ、みんな「お帰り」って待ってるからね。


 君の優しさも、健気さも、懸命さも、寂しさも、すべてを可愛く思っているよ。君と過ごした日々は、どれも穏やかで楽しく鮮やかに色づいている。でも帝都にある怪奇現象が起こるっていう廃墟に騙して連れて行ったこと、あれは絶対に許さないからね!



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[一言] こんにちは^ ^ 「華の降る丘で」大好きで何回も何回も読んでいます。 カーヤは日本に帰れるのか、エル殿下との恋はあるのか、エル殿下に事情を話すのか、また精霊王様たちとの出会いや森での暮らしな…
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