表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/25

第007話:昇格への試練

その後も、ステラとリィンの快進撃は止まらなかった。

成長著しいリィンがほぼ単独で依頼をこなし、危うい場面ではステラが完璧にカバーへ回る。

そうして二人は、次々と依頼を完遂していった。


「ステラさん、リィンちゃん。……マスターがお呼びよ」


ある日、受付嬢のアニスが、わずかに緊張を帯びた面持ちで二人に告げた。

案内されたのは、ギルド二階にある重厚な執務室。

扉を開けると、バッカスが山のような書類を背に座っていた。


「……失礼するわ」


ステラが静かに足を踏み入れた、その瞬間――

バッカスは椅子に預けていた体を反射的に起こし、目を見開いた。

数多の戦場を渡り歩き、強者や「異変」を見てきた彼の本能が、最大級の警鐘を鳴らしていたのだ。

(なんだ……この女は。底が見えん。……いや、底が“ない”のか……!?)


ステラの双眸に射抜かれた瞬間、バッカスは、自分が巨大な怪物の前に立つ羽虫になったかのような錯覚に陥る。

額に一筋の汗が伝った。

だが彼はそれを押し殺し、ギルドマスターとしての矜持を辛うじて繋ぎ止めた。


「……コホン。急に呼び出して済まないな。俺はこのギルドの責任者、バッカスだ」


「ステラよ。そして、こっちがリィン」


紹介されたリィンは、やや緊張した面持ちで頭を下げた。


「できれば手短にお願いするわ。次の依頼への移動があるの」


ステラの超然とした態度に、バッカスは苦笑する。

――やはり、ただの新人ではない。


「そうか。では単刀直入に言おう。お前たちの実力は、もはや見習いの『鉄』に留めておくには不釣り合いだ。 ……そこで、特例として『昇格試験』を受けてもらいたい」


通常、鉄ランクからの昇格には数ヶ月から数年の実績が必要とされる。

だがバッカスは、彼女たちを早急に「銅」――あるいはそれ以上へ引き上げ、その動向を注視すべきだと判断していた。


「試験内容は、北の廃城の祭壇にある魔石『蒼穹の涙』と、それを守る上位魔物の討伐。 かつてオニキス防衛の要だった場所だ。 討伐後、祭壇の魔石を持ち帰れ。それをもって合格とする」


バッカスは一度言葉を切り、二人を見据える。


「これに成功すれば……『銅』を飛び越え、『銀』への昇格を認めよう」


「銀」への二階級特進。

それは、このギルドでも数えるほどしか前例のない破格の提案だった。


リィンは思わず目を見開く。

だがステラは、隣の少女を一瞥すると、静かに頷いた。


「いいでしょう。リィンの経験としても悪くないわ」 


――別の依頼を達成した翌日。

依頼報酬と通行許可証を受け取るため、ギルドの扉を開けると、『鋼の咆哮』の面々が声をかけてきた。

どうやらアニスから話を聞いていたらしい。


「おいおい、聞いたぜ。いきなり昇格試験かよ。マスターも無茶をさせるな」


リーダーのカイルが、呆れたように笑いながら近づいてくる。

だがその目は、どこか楽しげだった。


「北の廃城だろう? あそこは厄介だ。影に潜む『シャドウウォーカー』が出る。物理攻撃が通りにくい相手だ」


魔導士ジードが、眼鏡の奥から鋭い視線をリィンへ向ける。


「君の短剣の腕は確かだが、影の魔物には魔力を刃に乗せる意識を持つといい。

属性は水か無、と言っていたね。……水の“揺らぎ”をイメージするんだ」


「……水の、揺らぎ」


リィンは真剣な表情で頷いた。

斥候の少女――ミラが、軽くリィンの肩に手を添えて囁く。


「あと、あそこは床が脆い場所が多いの。足音を殺して、慎重に動くこと。 ……死なないでよね、期待の新人」


「ありがとうございます、皆さん!」


リィンは、力強く笑顔を見せた。

その様子を、ステラは少し離れた場所から静かに見守っていた。

人の温かさに触れ、少しずつ“冒険者”として形作られていくリィンの姿を。


「……さて、支度をしましょうか。あなたの力が試される時よ」


ステラの言葉に、リィンは力強く頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ