第006話:注がれる視線
冒険者として登録してから数日。ステラとリィンは着実に依頼をこなしていた。
二人がいつものようにギルドの重厚な扉を押し開けると、朝の喧騒がわずかに静まる。
「よう、お二人さん。いい仕事をしてるみたいじゃないか」
声をかけてきたのは、使い込まれた甲冑を纏った三人組のパーティーだった。
この街を拠点にする実力派、『鋼の咆哮』。
リーダー格の重戦士カイルが気さくな笑みを浮かべ、二人の前に立つ。
その隣には、冷静な眼差しで魔導書を携えた魔導士ジード。
そして、鋭い短剣を弄ぶ斥候の少女が控えていた。
「俺たちは『鋼の咆哮』。一応、これでも『銀』ランクで通ってる。 お嬢ちゃんたちの噂は聞いてるぜ。鑑定器を壊した銀髪の姉ちゃんと……筋のいい新人、ってところか」
この世界において、冒険者の実力はギルドが付与する五段階のランクで証明される。
・鉄:駆け出し。街周辺の雑用や小型魔物の討伐が主。
・銅:一人前。中型の魔物を単独、あるいは少数で狩れる。
・銀:熟練。高い戦闘力と生存能力を持ち、地域一帯の脅威に対応する。
・金:超一流。国から直接依頼が舞い込むほどの英雄候補。
・星:最高位。伝説級の魔物や国家存亡の危機に立ち向かう英雄。
登録したばかりの二人が属する「鉄」から見れば、カイルたちはまさに雲の上の存在だった。
「どうだ、よければ次の依頼、俺たちが手助けしてやってもいい。 銀ランクの知識があれば、死なずに済むコツも教えてやれるぜ」
背後の二人も小さく頷く。
そこに悪意はない。才能ある新人を導こうとする、冒険者特有の互助精神からの提案だった。
リィンはステラの顔を見上げる。
しかしステラは表情を変えず、静かに首を横に振った。
「お申し出には感謝するわ。でも、今はまだこの子の基礎を固める時期。 当面は二人だけで依頼をこなすつもりよ」
拒絶ではなく、あくまで方針。
その毅然とした態度に、カイルは肩をすくめる。
「……そうか。それなら無理にとは言わねえ。だが、何か困ったことがあったら声をかけな。オニキスの冒険者は、身内には温かいからよ」
二人が受付を済ませて奥へと去ると、再びギルドの扉が開いた。
「――ふむ、何やら騒がしいな」
現れたのは、顔に大きな古傷を持つ、岩のように屈強な男。
このオニキス・ギルドを束ねるマスター、バッカスである。
重要事案の会議のため、王都へ出張に出ていた。
受付嬢のアニスは、その姿を見るなり、溜まっていた報告を一気に吐き出した。
「マスター! お帰りなさい! 実は、とんでもない新人が二人、登録したんです!」
アニスは、ステラが鑑定器を粉砕したこと、そしてリィンと共に驚異的な速さで依頼を完遂していることを、身振り手振りを交えて説明する。
「ほう……鑑定器が耐えきれんほどの魔力量か。 それに、あのカイルたちの誘いを断ったというのか」
「リィンちゃんの戦闘を目撃した冒険者によると、相当な筋の良さだそうです。 ステラさんは後ろで見守っているだけで、まるで『曰く付きのお嬢様とその護衛』のような雰囲気で……」
「そうか……」
バッカスは、二人が先ほど受理していった依頼書へと視線を落とした。
「実力は本物か、それともただの無謀か。 ……どちらにせよ、近いうちに俺自ら、その器を確かめる必要がありそうだな」
ギルドマスターの眼差しに、鋭い光が宿った。




