第005話:新たな一歩
昨日の初報酬を手に、二人は活気あふれるオニキスの商業区へと繰り出した。
朝の陽光を浴びる石畳の両脇には、武器や防具を並べた店が軒を連ねている。
「リィン。その短剣はともかく、今の服装では身を守るには心許ないわ。最低限の装備を整えましょう」
ステラの助言に従い、二人は煙突から絶えず煙を上げる武具店の暖簾をくぐった。
店内には焼けた鉄の匂いが立ち込め、壁には無数の剣や革鎧が並んでいる。
「いらっしゃい。……おや、ギルドを騒がせたお嬢ちゃんたちじゃないか。噂は聞いたよ」
恰幅の良い店主が、驚いたように目を細める。
リィンは少し照れくさそうに笑い、昨日稼いだばかりの銅貨をカウンターに置いた。
「これで買える、私に合う防具はありますか?」
店主はリィンの体格を素早く見定めると、奥から一着の胸当てを取り出した。
「上質なラビットレザーを硬化させたものだ。軽くて丈夫、動きも邪魔しない。駆け出しにはちょうどいい」
ステラが細い指先で革の質感を確かめ、小さく頷く。
「いいわね。……リィン、着てみなさい」
初めて身につける、自分のための防具。
慣れない手つきで革紐を締めると、自然と背筋が伸びた。
ガイルの形見である短剣も、新調したベルトの鞘へとしっかり収まる。
「……うん、守られてる感じがします!」
装備を整えた二人は、そのままギルドへ向かった。
選んだ依頼は、昨日よりも難易度の高い鉄ランク師弟の『街道近くの廃坑に棲みついた黒蜘蛛の掃討』。
廃坑の入口には、ひんやりと湿った空気が漂っていた。
「リィン。新しい装備の感触を確かめながら戦いなさい。道具は身体の一部。馴染ませて初めて真価を発揮するものよ」
「はい、ステラさん!」
暗闇の奥から、カサカサと不気味な音が響く。
やがて巨大な蜘蛛が姿を現した。
森鼠よりも素早く、鋭い毒牙を備えている。
だが、リィンの胸にあるのは、もはや恐怖だけではなかった。
胸元を覆う革の感触が、確かな支えとなっている。
「そこよ――右から来るわ!」
ステラの鋭い声が飛ぶ。
次の瞬間、蜘蛛が粘着質の糸を吐き出した。
リィンはそれを紙一重でかわし、一気に懐へ踏み込む。
新しいベルトのおかげで、短剣を引き抜く動作は驚くほど滑らかだった。
キィィィッ!
閃く一撃が、蜘蛛の眉間を正確に貫く。
昨日よりも明らかに無駄がない。
動きは洗練され、迷いが減っている。
ステラは背後で細剣を構えたまま、その成長の速さにわずかな驚きを覚えていた。
やがてすべての魔物を退け、二人が坑道を出ると、西の空はすでに茜色に染まり始めていた。
「お疲れ様、リィン。装備もよく馴染んでいたわね。……明日からは、少し本格的な訓練も取り入れましょうか」
「えっ、訓練ですか!? ……お手柔らかにお願いしますね、ステラさん!」
リィンの明るい声が、夕暮れの街道に響く。
手にした報酬は、昨日よりも確かに増えていた。
そして二人の絆もまた、この新しい装備のように、少しずつ、しかし確実に強まっていくのだった。




