第074話:龍の息吹
前衛のアイラが、トレントと相性の良い《焔牙》を、迫り来る枝や蔦へ一撃を叩き込んだ。
しかし、放たれた炎は触れた瞬間、枝の中へ吸い込まれるように霧散した。
「なっ!? 炎が消えた……!?」
驚愕に目を見開いたアイラを、ユグドラシル・トレントの太い枝が容赦なく吹き飛ばす。さらに追撃の蔦が、彼女を縛り上げようと殺到した。
「アイラさん!」
そこへリィンが咄嗟に割り込み、『メルクリウス』の一閃で蔦を切り裂き、枝を払い落とす。
「気をつけて! ユグドラシル・トレントは魔力を吸収しているわ。魔法攻撃はそのまま餌になるだけよ!」
ステラが叫びながら『ドラゴンスケイル』を展開する。
大蛇のような鎖が、二人へ襲いかかるエルダートレントたちを次々と貫き、粉砕していく。同時に、前衛の二人へ物理と魔力の二重加護を付与した。
「くっ、エルダートレントの数が多すぎる……! 私が周囲を間引く。リィンはユグドラシルの枝葉を断ち切ってくれ!」
アイラが再び《焔牙》を振るい、襲い来る下位種たちを文字通り松明へ変えていく。
「わかりました!」
リィンは行く手を阻むユグドラシルの枝を切り落としながら、その巨大な幹へ向かって突進した。背後から迫る攻撃は、ステラの鎖が完璧に弾き飛ばしていく。
その時――ユグドラシル・トレントの枝に生い茂る葉が、不気味な黄色い光を放ち始めた。
「……ッ、危ない! 伏せて!」
ステラが咄嗟に多重シールドを展開したが、無数の葉から放たれた圧縮魔力光線が、その隙間を縫ってアイラとリィンを襲う。
「ぐっ……!」
「きゃあっ!」
光線に貫かれた箇所から鮮血が舞った。
(これは、極限まで圧縮された魔力……?)
ステラはシールドを叩く衝撃に歯噛みする。
さらに、地面へ張り巡らされた根が、二人の魔力をじわじわと吸い取っているのを感じた。
「二人とも、一旦こちらへ後退して!」
ステラの指示に従い、二人は包囲を潜り抜けて後方へ下がる。
「奴は、根を通して私たちの魔力だけでなく、迷宮のエネルギーを吸収し、全方位攻撃へ転換しているようだ」
アイラが荒い息を吐きながら傷口を押さえた。
「私が支えるわ。ポーションで傷を癒して」
ステラは『並行思考』を発動する。
右手で鎖を操り防御を固めながら、左手でエルダートレントを焼き払っていく。
(あの光の雨を何度も受けるのは得策じゃないわね。……けれど、メルクリウスが纏う紫電は、魔力ではなく剣そのものの性質によるもの。あれなら――)
ステラは、再び前衛へ立とうとするリィンの剣を見つめた。
「リィン。物理的な衝撃と、その剣が持つ固有の雷ならダメージが通るはずよ!」
「だが、エルダートレントが次々に再生してキリがなく、隙がない!」
剣技を尽くして戦うアイラが、焦燥に駆られた声を上げる。
ユグドラシル・トレントは、地中からエルダートレントをつ 次々に産み出し続けていた。
(数が多すぎるわね……。少し掃除が必要かしら。人間の姿で“これ”を使うのは初めてだけれど、背に腹は代えられないわね)
ステラは左手へ意識を集中させた。
「……うまくいくかしら。加減が難しいのよね」
そう呟き、前方の森を埋め尽くすトレントたちへ掌をかざす。
刹那――極大の『ブレス』が解き放たれた。
辺り一帯は純白の閃光に塗り潰され、轟音と共にエルダートレントの群れが一瞬で消滅する。
「……やはり、魔力由来ではない『純粋な力』までは吸収しきれないようね」
爆風に銀髪をなびかせながら、ステラは枝の半分を消失させ、怯んでいるユグドラシルを見据えた。
「リィン、今よ! あの雷を纏わせなさい!」
「はいっ!!」
準備を整えていたリィンが、雷が迸るメリクリウスを手に、守護者の懐へと突き進んでいった。




