第072話:深緑の最奥
夜も更け、『灰狼の爪』のメンバーとの楽しい語らいも落ち着いた頃。宴の片付けを終えたアイラが、ふらりとステラの隣に腰を下ろした。
「先ほどのリィンの雷撃……見ていたか?」
「ええ」
ステラは消えかかっている焚き火を見つめたまま、短く答える。
「正直言って驚いた。私の《焔牙》を参考に、あの短時間で魔法剣のコツを掴んでしまうとはな」
ステラはすぐには言葉を返さず、パチパチと爆ぜる火の粉を見つめ続けている。
「あの子の習得速度は、もはや異常とも思える。……紗奈、其方はどう見ているんだ?」
アイラの視線を感じながら、ステラは手元の枝で焚き火の跡をかき回した。
「……そうね。あの子は特別。選ばれた子なのよ」
「…………七星、か」
「ええ。この迷宮にある祭壇にも、その答えの一つが隠されているのかもしれないわね」
「……そうだな」
アイラはそれ以上深掘りすることなく、迷宮の偽りの夜空に輝く星々を静かに眺めた。
ーー翌朝
野営のテントを片付けた一行は、それぞれの目的地へ向かうため、別々のルートを辿ることになった。
「俺たちはこのまま、さらに宝箱の捜索を進めるつもりだ。これだけ上位種が出現しているんだ、中身にも期待できそうだからな」
ボルグがそう告げると、アイラも頷いて応じる。
「そうか。私たちはこのまま奥へ進むことにする。またどこかで会うこともあるだろう」
「リィンちゃん、魔法剣は先を越されちゃったけど、次に会う時は私も披露してみせるからね!」
騎士のナギが力強く拳を握り、リィンとアイラに笑いかける。
「あの……ステラさん。今度お会いした時は、もっと魔法のお話を聞かせてください」
神官のフィナが少し名残惜しそうに、上目遣いでステラを見つめた。
「ええ、もちろん。また会えるのを楽しみにしているわ」
ステラは銀髪をさらりと掻き上げ、柔らかな笑みを返した。
そうして三人は『灰狼の爪』と別れ、再び深緑の森の奥へと足を踏み入れた。
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道中、木に擬態したエルダートレントや、蔦に紛れたネイビースネーク、花に化けたブルーミングスライムの襲撃を受けたが、三人の連携の前にそれらが脅威となることはなかった。
「宝箱って、本当にあるんでしょうか……?」
丸二日歩き続けてもそれらしき気配がないことに、リィンがふと疑問を漏らす。
「ランダムに出現するとは聞いているけれど、第一層は確率が低いのかもしれないわね」
ステラが周囲を警戒しながら歩みを進めていると、先を行くアイラが足を止めた。
「……あれか?」
アイラの指さす先には、びっしりと蔦に覆われた重厚な石扉が鎮座していた。
「あれが第一層最奥の間のようね」
「ボルグの話では、守護者の間の直前に転移陣があると言っていた。……扉の脇にある、あれだな」
三人は石扉の前まで歩み寄り、転移陣の前で足を止める。
「どうする? 一度外に戻るか?」
振り返るアイラの問いに、ステラはリィンの顔を覗き込んだ。
「一日に一パーティ限定だという話だったわね。もし扉が開かなければ、明日まで待つことになるわね」
「そうだな。試してみよう」
アイラが重厚な石扉に手をかける。しかし、扉は何の反応も示さず、びくともしなかった。
「どうやら、先約がいるようだ」
アイラが肩をすくめて手を離す。
「……それなら、一旦外に戻りましょう」
三人は扉の横に設置された転移陣の上へと乗り、光に包まれた。




