第070話:迷宮の法則
全員が揃ったところで、狼獣人のボルグが改めてアイラたちへ向き直った。
「改めて礼を言わせてくれ。あんたたちの加勢に救われた。……うちのメンバーを紹介させてほしい」
ボルグの言葉を受け、ドワーフの重戦士が重い大槌を肩へ担ぎ、快活に笑った。
「俺はドクだ。さっきは助かったぜ!」
「こっちは弓使いのハンス、そして魔導士のユージンだ」
紹介された二人は、まだ興奮が冷めやらぬ様子で会釈を返す。
「そして、神官のフィナと、槍使いのバルクだ」
「回復魔法、本当に助かりました。おかげで皆、命を繋ぐことができました」
神官のフィナがステラの手を取り、丁寧に礼を述べた。
「ええ、無事で何よりだったわね」
ステラは淡々と、しかし拒絶の色は見せずに応じる。
「ところで……報酬の件だが」
集めてきた魔石の袋を指し示しながら、ボルグが真剣な面持ちで切り出した。
「俺たちは、あんたたちの言い値で構わないと思っている。希望を教えてくれ」
アイラが隣のステラへ視線を送ると、ステラは小さく首を横に振った。
「魔石は不要よ。その代わり、情報が欲しいわ。私たちは今日この迷宮へ入ったばかりで、第一階層の状況を詳しく知らないの」
「なるほど、情報か……了解した。それなら俺たちが知っていることをすべて共有しよう」
迷宮の情報は、各パーティのノウハウであり、生死に直結する重要な財産だ。金銭的にも非常に高い価値を持つ。
それでもボルグたちは、自分たちを救った相手へ惜しむべきではないと判断したのだった。
そうして一行は、『灰狼の牙』がこの迷宮で経験したことを詳しく聞く。
彼らは本来、第三階層まで到達している実力者であること。今回は宝箱の捜索のため、第一階層を探索していたこと。そして今日は、以前に比べて明らかに上位種の魔獣が多く、難易度が異常に跳ね上がっていることを教えられた。
「やはり、上位種が活性化しているのね……」
ステラが思考を巡らせる傍ら、アイラは先の階層の構造へ関心を寄せた。
「この迷宮は、さらに奥へ進むとどう変わっていくのだ?」
「俺たちが知っているのは第三階層までだが……第二層は、美しい鍾乳洞が広がる地底湖のエリアだ。水属性の魔物が多い。そして第三層は一転して火山地帯。強力な炎の眷属たちが跋扈している」
「先へ進むほど、多様な職種を組み合わせた連携が必要になります」
神官のフィナが、三人の顔ぶれを見ながら心配そうに口を開いた。
「見たところ、貴女たちは前衛と後衛のバランスが少し偏っているようだけれど……大丈夫かしら?」
「……助言に感謝するわ」
ステラは曖昧に頷いた。
だが、その内心では、フィナとは別の懸念を抱いていた。
今後さらに巧妙な罠が増えること。シオンのような強敵が再び現れる可能性。そして、シトリーの“ギフト”が持つ真意――。
さらにボルグたちは、階層の守護者についても重要な情報を付け加えた。
各階層の最奥には守護者が存在し、その手前には転移陣が置かれていること。挑戦は一日に一パーティ限定であること。そして何より奇妙なのは、敗北した場合のルールだった。
「もしパーティが全滅した場合、強制的に時間が遡り、一定期間、その守護者の間への立ち入りが禁じられる。そして――守護者は、挑戦するパーティによって異なるみたいだ」
「個別に変わるというのか?」
アイラの問いに、ボルグは困惑気味に頷く。
「ああ。俺たちの時はエルダートレントだったが、別の連中はパラサイトバタフライだったと言う。他のパーティーも異なっていた。どうも、挑む者の力量に合わせて守護者が選別されているようだ」
(……できすぎているわね。これもシトリーの仕業かしら。まるで冒険者を効率よく『育成』しているかのよう……)
ステラは、冒険者にとって都合が良すぎるその仕組みに、言いようのない不気味さを覚えていた。
情報交換に没頭しているうちに、空を模した迷宮の天井が、次第に夕闇のような色へ染まり始めていた。




