第069話:救援
群がるアーミーアントたちの鋭い牙と前脚の猛攻を、死に物狂いで凌いでいた戦士たちは、突如響いたアイラの声の意味を、すぐには理解できなかった。
「は……? なんだって?」
「ボルグ! あいつら、何か言ってるぞ!」
片手斧でアントを牽制していた狼獣人のボルグへ、大槌を振るうドワーフの重戦士が叫ぶ。
後衛から弓を射続けていた男が、必死の形相で前衛へ声を張り上げた。
「助勢してくれるって言ってるんだよ! 加勢の申し出だ!」
「どうするの、ボルグ!?」
負傷して倒れ込んでいる二人の治療に当たっていたヒーラーが、悲鳴に近い声を上げる。
パーティ『灰狼の爪』は、リーダーのボルグ、盾役のドワーフ、そして女騎士の三人が辛うじて前線を維持していた。
だが、その女騎士がアントの剛脚に弾き飛ばされ、無様に地面へ転がる。
「がはっ……!」
「ナギ! 大丈夫か!」
腕を負傷し、地面に這いつくばるナギを見て、ボルグはもはやプライドを捨てた。
「くっ……すまねえ! 助力を頼む!」
ボルグの叫びを聞き届け、アイラが不敵に微笑む。
「了解した! リィン、私と共に前衛を支えるぞ。ステラは後衛のフォローを頼む」
「わかったわ」
ステラはすでに『龍鱗鎖』を展開していた。
銀の鎖が蛇のように空を舞い、リィンを狙おうとしたアントを瞬時に貫きながら、ヒーラーたちのもとへ歩み寄る。
アイラが剣に爆炎を纏わせ、群れの中へと躍り出た。
「《焔牙》!」
彼女が一閃するたび、アントたちは傷口から発火し、次々と生きた松明と化していく。
一方、リィンは紫電を纏い、淡い蒼光を放つ神具『メルクリウス』を正眼に構えた。
「いきます!」
振り下ろされた宝剣は、その可変する超重量によって絶大な破壊力を生み出す。
まともに受けたアントの硬い甲殻は、紙細工のように容易く爆散していった。
「おいおい……嘘だろ、あんたたち……!」
ボルグとドワーフは呆然としながらも、援護を得て勢いを取り戻し、残るアントたちを蹴散らしていく。
ステラは二人の無双ぶりを横目に、負傷者の治療に当たっていたヒーラーの隣へ立った。
「待たせたわね。私も回復魔法が使えるから、少し下がっていて」
「えっ、でも、二人の傷は深くて……」
戸惑うヒーラーを制し、ステラが無造作に手をかざす。
柔らかな黄金の光が負傷した二人を包み込むと、流血していた深い傷口が、見る間に塞がっていった。
「なっ……!? これほど強力な上位魔法を、無詠唱で……!?」
ヒーラーが驚愕に目を見開く。
「これで二人は大丈夫よ」
ステラは淡々と告げると、離れた場所で倒れ込んでいた騎士ナギへ視線を向けた。
背後から一匹のアントが彼女へ牙を剥こうとしていたが、ステラの指先が動くと同時に、ドラゴンスケイルが音もなくその眉間を撃ち抜く。
回復した槍使いと魔導士が戦列へ復帰すると、戦況は一気に決した。
魔導士が放つ真空の刃が逃げ惑うアントたちを切り刻み、ほどなくして戦場に静寂が戻る。
戦闘終了後。
息を整えた『灰狼の爪』の面々が、アイラとステラたちのもとへ歩み寄ってきた。
ボルグは武器を収め、深く頭を下げる。
「助力に感謝する。……俺は『灰狼の牙』のリーダー、ボルグだ。あんたたちは?」
「『紅蓮の絆』のアイラだ。この子はリィン。そして、あっちで鎖を片付けているのがステラよ」
「皆さん、ご無事でよかったです!」
リィンの屈託のない笑みに、殺伐としていた冒険者たちの表情が、ようやく緩んだ。




