第068話:紅蓮の剣閃
スライムやトレントの襲撃を撃退したリィンたちは警戒しながら歩みを進める。
しばらく進むと、鬱蒼とした森を抜け、開けた野原へと出た。頭上にはどこまでも続くような青空が広がり、眩しい日差しが降り注いでいる。
「やっぱり、ここが迷宮の中だとは信じられないな」
辺りを見回しながら、アイラが感嘆の息を漏らす。
「はい。この心地よい風は、一体どこから吹いてきているのでしょう……?」
時折吹き抜ける風に蒼い髪をなびかせながら、リィンも空を見上げた。
だが、ステラだけは、その美しさに紛れてキラキラと光りながら近づいてくる“何か”に気づいていた。
「あれは……?」
ステラの視線の先を追ったアイラが、短く舌打ちをする。
「モスの群れか。奴らの鱗粉には強力な状態異常を引き起こす毒が含まれている。あの数に風下を取られると厄介だな」
さらに目を細め、群れが放つ異様な銀光を見定める。
「……いや、ただのモスじゃない。上位種の『ミラーモス』だ。神経麻痺の鱗粉を撒き散らす、極めて厄介な連中だよ。ここは私に任せてもらおう」
アイラが一歩前へ出る。こちらを感知して急速に距離を詰めてくる銀色の群れを見据え、静かに剣を構えた。
刀身に刻まれた魔導紋様が赤熱し、激しい拍動を始める。
その瞬間――。
ごおっ――!!
白銀の刃から、爆発的な深紅の炎が噴き上がった。周囲の草花が一瞬で焼け焦げ、凄まじい熱風が野原を駆け抜ける。
「《焔牙》」
低く鋭い詠唱と共に、アイラが地を蹴った。
横薙ぎに振り抜かれた一閃。
放たれた紅蓮の斬撃は、逃げ場のない爆炎の壁となり、空を覆う銀色の群れを丸ごと飲み込んだ。
焼け落ちる翅。
一瞬で炭化する虫体。
銀色に輝いていた視界は、一転して灼熱の赤へと染まった。
「す、すごい……」
燃え上がる空を見上げ、リィンが呆然と呟く。
「面白い技ね。剣技に高密度の魔法を乗せているのかしら?」
ステラの問いに、アイラは残炎を散らしながら剣を鞘へ収めた。
「そうだな。一般的には『魔法剣』と呼ばれている。魔獣が以前よりタフになっていると聞いていたが……これなら問題なさそうだ」
「ふふっ、『紅蓮の戦姫』の異名は、その容貌だけでなく、貴女の技にも由来しているのね」
「それは、どうだろうな……」
ステラに笑いかけられ、アイラは少し照れくさそうに答えた。
一行は小休止を挟み、再び森の奥へと歩みを進めた。
しばらく進むと、静寂を切り裂くような激しい金属音と怒号が聞こえてくる。
「誰かが戦っているようね」
「様子を見てみよう」
茂みを抜けた先では、巨大なアリの群れと格闘する七人編成のパーティの姿があった。
「苦戦しているようね。……あれはジャイアントアントの上位種、『アーミーアント』か。集団戦術と高い攻撃力を誇る、厄介な魔獣だわ」
戦況は明らかに劣勢だった。
負傷した冒険者が二名後方へ下がり、前衛の三人が必死の形相でアントの猛攻を食い止めている。後方の魔導師による援護魔法も、硬い甲殻を前に決定打を欠いているようだった。
「ステラ、リィン。……助けに入るか?」
防衛線が今にも崩壊しそうな惨状を見かねて、アイラが二人へ問いかける。
だが、ステラは首を横に振りながら、冷静に戦況を見据えたまま釘を刺した。
「勝手な手出しは、冒険者の間ではルール違反でしょう?」
「……分かっている。獲物の横取り、あるいは報酬の強要とみなされる恐れがあるのは百も承知だ。だが……」
悔しそうに拳を握るアイラに対し、ステラはわずかに表情を和らげて言葉を継いだ。
「でも、相手が正式に要請するのであれば、それは正当な『助力』になるわ」
「……そうだな。ならば、提案してみよう!」
アイラは迷いなく前へ踏み出し、死闘を繰り広げる戦士たちへ向かって声を張り上げた。
「――『紅蓮の絆』のアイラだ! 貴公ら、助力を希望するのであれば助太刀しよう。どうする!」




