第063話:迷宮都市の喧騒
翌朝。三人は、エデルナの中心街に佇む冒険者ギルドへと向かった。
行き交う冒険者たちの姿は、整然としていた王都とはまるで異なる。無骨な革鎧を纏った者、異国の紋様が刻まれたローブを羽織る者。そして何より目を引くのは、エルフや獣人といった多種多様な亜人たちの姿だった。
屈強な虎の獣人とすれ違った際、リィンはその迫力に圧倒され、思わず視線を釘付けにされてしまう。
「王都とはまるで雰囲気が異なるわね。まさに『世界の縮図』といったところかしら」
白銀の鎧を揺らし、白いマントをなびかせて歩くアイラは、物珍しげに周囲へ目を配っていた。荒くれ者たちがひしめく中で、凛とした気品を放つ彼女の姿はひどく浮いていたが、ステラはフェンリルから聞いた「諸国から多くの冒険者が集まっている」という言葉を思い返し、「そうね」と短く同意した。
ギルドの重厚な扉を押し開くと、内部は熱気と怒号にも似た活気に包まれていた。その多くは迷宮へ潜るための手続きを待っているようで、『迷宮受付』と書かれた窓口には長い列ができている。
「私たちは、まずはこちらね」
アイラが指し示した『一般受付』の窓口へと並ぶ。自分たちの前では、獣人族のパーティが到着の手続きを受けている最中だった。リィンは、間近で見る獣人たちの筋骨隆々な体躯を見上げ、息を呑む。
「……狼獣人と、あちらは熊の獣人ね」
アイラがリィンの耳元でそっと囁いた。
「……本当に、色々な種族の方がいるのですね」
圧倒されながらも、リィンの瞳には未知の世界に対する好奇心の光が宿っていた。
しばらく待つと、ようやく彼女たちの順番が回ってきた。
「『紅蓮の絆』の三名よ。王都ルアスから到着したわ」
代表してアイラが登録を行う。受付担当は魔道具で情報を照会すると、迷宮探索の基本手順を淡々と説明し始めた。
入念な準備を怠らないこと。各階層に設置された転移陣を使用すれば、次回以降はその階層から探索を再開できること。ただし、転移陣の登録には有効期限があり、長期間放置すればリセットされるため注意が必要であること。
(フェンリルに聞いた通りね……。目的の祭壇があるのは、最下層の第五層か)
隣で説明を聞いていたステラは、脳内にある迷宮の構造図を更新する。
「迷宮へ入る前には、隣の『迷宮受付』で入場証を受け取ってくれ。入り口の封印を解くのに必要だ。それと……最近、迷宮内で収穫物の横奪事件が多発している。くれぐれも背後には気をつけることだ。迷宮内でのトラブルに、ギルドは一切関知しない」
「なるほど、了解したわ」
「説明は以上だが、何か質問はあるか?」
アイラがステラの方を見ると、彼女は落ち着いた声で尋ねた。
「宝箱から出たアイテムや武具の買い取りは、こちらの窓口でいいのかしら?」
「いや、アイテム類の換金は隣の迷宮受付だ。夕方は非常に混雑するから、翌朝に回すのが賢明だろう」
「そう。わかったわ」
「他に質問は? ……特になければ、一つ追加だ。『紅蓮の絆』の諸君が到着したら、ギルドマスターへ即座に繋ぐよう指示が出ていてな。あそこのテーブルで待機していてくれ」
受付担当は、カウンターから少し離れた場所にある待機席を指し示した。アイラたちが席へ向かうと、入れ替わるように次の冒険者が窓口へと詰め寄る。
混雑するロビーの熱気の中で三人が待っていると、ほどなくして一人の受付嬢が近寄ってきた。
「『紅蓮の絆』の皆様ですね?」
アイラが「そうだ」と短く答えると、彼女は深々と一礼した。
「ギルドマスターがお待ちです。奥の執務室へご案内いたします」
三人は顔を見合わせると、喧騒を離れ、ギルドの奥へと続く重厚な扉の先へ足を踏み出した。




