第060話:迷宮都市エデルナ
翌日も、旅程は滞りなく進んでいった。
揺れる馬車の中、少しずつ三人の雰囲気に慣れてきた冒険者の一人が、好奇心を抑えきれない様子で尋ねてくる。
「エデルナは王国東部の要衝であると同時に、名高い『迷宮都市』でもあります。皆さんのような手練れが向かうということは……やはり迷宮へ?」
その問いに、アイラが迷いなく答えた。
「ああ。そこが私たちの目的地だ」
すると、別の冒険者が顔を寄せ、声を潜めて助言する。
「それなら、気をつけた方がよろしいです。最近、正体不明の奇妙なパーティが迷宮を荒らしているって噂があります。その……かなり特殊な連中らしくて」
「そう。情報に感謝する」
アイラはさほど気にする様子もなく受け流したが――また厄介ごとか、とステラは微かな懸念を覚える。だが、それを表に出すことなく、静かに窓の外へ視線を向けた。
そして三日目の夕刻。
朝から走り続けた駅馬車の前方に、ついにエデルナの重厚な城壁が姿を現した。
王都ルアスには及ばないものの、かつて立ち寄ったオニキスより一回りは大きく、堅牢な造りをしている。
「着いたわね……」
「はい。大きなお城みたいです!」
城門では衛兵による検問が行われていたが、乗員全員が正規の通行証を所持していたため、滞りなく門をくぐることができた。
停留所に到着すると、乗客たちは一斉に地面へ降り立つ。
アイラは真っ先に、道中を支えた護衛の冒険者たちのもとへ歩み寄った。
「長旅の護衛、大儀であった。貴殿らの尽力のおかげで、無事に辿り着けたわ」
王女時代からの習慣なのだろう。
労いの言葉をかけられた冒険者たちは、恐縮しながらもどこか誇らしげな表情を浮かべていた。
その様子を傍らで見ていたステラは、「根っからの王族なのね」と、アイラの持ち前の気配りに感心する。道中の商人たちもまた、アイラへ深々と頭を下げて去っていった。
初めて訪れる街の活気に、リィンは目を輝かせながらあちこちを見回している。
しかし、ステラとアイラは「まずは拠点作りが先決」と、浮き足立つリィンを優しく促し、中心街へと歩を進めた。
夕暮れの街を歩けば、やはり三人の姿は嫌でも人目を引く。
向けられる好奇の視線を柳に流しながら、三人は冒険者向けの宿を見つけ、その扉を叩いた。
「三名、冒険者だ。部屋を頼めるか」
受付にギルドカードを提示し、三人はエデルナでの最初の一夜を迎えることとなった。
「さて、宿も確保できたことだし、街へ繰り出すか!」
「アイラ、貴女ね……。少しは王族としての自覚を持ちなさいな」
ステラから見ても、アイラから溢れる気品は、荒くれ者の集まる酒場では浮いてしまうのが目に見えていた。
「何を言っている。今の私は一介の冒険者だ。気後れする必要などない」
「そういう意味で言ったのではないのだけれど」
かえってやる気を見せるアイラに、ステラは小さくため息を吐く。
やがて辺りはすっかり暗くなり、魔導灯が夜の街を照らし始めた。
賑わう酒場へ三人が足を踏み入れると、案の定、場違いなほど美貌の三人組へ視線が一斉に集まる。
アイラとステラは気にする様子もなく空いているテーブルへ向かい、リィンは周囲を気にしながら、おずおずと後に続いた。
席に着くとすぐ、一人の男が注文を取りに近づいてくる。
「ご注文は?」
無愛想な声。
しかし、その直後――ステラの脳内に別の声が響いた。
【――お待ちしておりました、ステラ様】




