第056話:最初の目的地
パーティー登録を正式に終えた三人は、再びギルドのテーブルへ戻り、腰を下ろした。
「出発の前に、それぞれの役割を明確にしておきましょう」
ステラがアイラに向き直り、問いかける。
「アイラ、貴女が最も得意とする戦い方は?」
「私は魔法も一通りこなせるけれど、主体は剣技ね。近接戦闘なら任せておきなさい」
「そう。なら前衛はアイラとリィンにお願いするわ。私は後方支援をメインに立ち回るわね」
ステラの提案に二人は大きく頷き、「よろしくお願いします!」とリィンが元気よく応じた。
「続いて、情報の整理をしましょう」
ステラが右手を空間へ差し込むと、波紋の中からカミーユから受け取った古い地図が音もなく現れた。
「『収納魔法』……。間近で見ても、やはり便利ね。本来なら多くの荷物を運ぶためのカバンが必要なのに」
アイラが感心したようにその光景を見つめる。ステラは気にする風もなく、机の上に広げた地図の一点を指差した。
「王都から最も近い祭壇はここよ」
地図の東側に広がる山地の中で、一箇所だけ淡い黄金色に点灯している場所。そこが神具に呼応する祭壇の所在地だった。
「この場所は、『エデルナ』の近郊ね。……となると、祭壇があるのは迷宮の中かしら」
アイラの言葉に、リィンがぱっと顔を輝かせた。
「迷宮ですか!? お父さんからお話を聞いたことがあります。とても強い魔獣が出てくるって……」
「場所によるわ。あそこは全五層ほどの小規模なダンジョンよ。それほど深くはないし、今の私たちなら脅威になるような魔獣はいないと思うわ」
事情に詳しいらしいアイラの解説に、ステラも頷く。
「……そう。なら、まずはそこを目指しましょう。ここからだと馬車で三日ほどの距離かしら」
「そうね。エデルナの街で買い出しはできるけれど、王都を出る前の準備はしっかりしておかないと。特に野営の道具や食料は、私が手配しましょうか?」
アイラの申し出に、ステラはわずかに口角を上げた。
「いいえ。道具の質にはこだわりがあるの。買い物には私が付き合うわ。……リィン、少し歩くけれど大丈夫?」
「はい、もちろんです! 『紅蓮の絆』の初仕事、頑張ります!」
三人は受付へ向かい、ヴィンセントに行き先を告げた。
「エデルナ近郊の迷宮ですね。承知いたしました。ギルド台帳に登録しておきます。現地のギルド支部でも情報は共有されますし、迷宮関連のクエストも発行されています。ぜひ立ち寄ってください」
台帳への登録は、パーティの足跡を残すと同時に、万が一の際の捜索の手がかりにもなる。
手続きを終え、三人が出口へ向かうと、そこには『黄金の牙』の面々が待ち構えていた。
「エデルナの迷宮なら問題ないとは思うが、最近あまり良くない噂を聞いている。油断するなよ」
ゴードンが兄貴分らしい助言を送る。隣でルルも、アイラに視線を送りながら微笑んだ。
「アイラさんも加わったから安心だけど、気をつけてね。お土産話、楽しみにしてるわ」
そして、リーダーのガイは、他の二人に悟られぬよう念話で言葉を届けた。
【ステラ様、お気をつけて。王都で変事があれば、速やかにご報告いたします】
【頼むわね。特にカミーユの動きには注意して】
【はっ。承知いたしました】
先輩冒険者たちの見送りを受け、新たなパーティ『紅蓮の絆』は、活気に満ちた王都の喧騒の中へと踏み出した。




