第053話:格付け
ギルバートは、その巨躯に見合う分厚い大剣を構えた。
「陛下の御前で大言を吐いたのだ。……真剣勝負といこうではないか」
本来、謁見の間は剣を振るう場所ではない。だが国王もアイリスも、そして騎士団長さえも、この「格付け」が必要であることを理解し、静かにその行方を見守っている。
ステラは優雅な所作で立ち上がり、ギルバートと対峙した。
「……真剣勝負と言ったが。貴様は素手か?」
丸腰で平然と立つステラの姿に、ギルバートは「舐められている」と苛立ちを露わにする。だが、ステラはそんな彼の殺気を受け流した。
「慌てないで。今、準備するから」
ステラが右手をに差し込むと、空間が波紋のように揺らぎ、そこから一振りの細剣が姿を現した。
「なっ……!」
「こいつも『収納魔法』を使いこなすのか……!」
騎士たちが驚愕にざわめく中、ステラは細剣を軽く振り、静かに構えた。
「――さあ、始めましょう」
いざ剣を構えて向かい合った瞬間、ギルバートの体は硬直した。
ステラはただ立っているだけに見える。だが彼には、彼女の隙が一つも見つからない。額に脂汗を滲ませながら、必死に踏み込むタイミングを測るギルバート。対するステラは、瞬き一つせず彼を見つめていた。
「おおおおおっ!」
沈黙に耐えかねたギルバートが、咆哮と共に大剣を上段から叩きつける。石床を砕かんばかりの一撃。だがステラは最小限の動きでそれを紙一重でかわし、瞬きする間に細剣の切っ先をギルバートの喉元へ突きつけていた。
「ま、まだだ……!」
ギルバートは必死に剣を振り回す。だがステラの足捌きはまるで舞踏のようだった。大剣の風圧すら届かぬ位置で翻弄し、その都度、彼の首筋や心臓に剣先を寸止めする。
それが幾度となく繰り返され――ついに埋めようのない実力差を悟ったのか、ギルバートは力なく剣を引いた。
「……参りました。私の負けです」
一礼して列に下がるギルバート。ステラは呼吸一つ乱さぬまま、細剣を再び亜空間へと収納した。
「見事です。その実力、疑う余地もありません」
アイリスは惜しみない賞賛を送り、玉座から立ち上がった。
「条件通り、私は冒険者として登録しましょう」
「アイリス、そなた、本当にそれでよいのか?」
国王の問いに、アイリスは不敵な笑みを浮かべて答える。
「ええ。このような胸躍る機会、二度とはございませんもの!」
心の底から楽しそうに、アイリスはステラたちに向き直り、凛とした声で告げた。
「リィン、ステラ。二人はギルドで待っていなさい。午後に落ち合いましょう」
「……承知いたしました」
ステラとリィンは深々と一礼し、嵐のような熱気が残る謁見の間を後にした。
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ギルド本部に到着するなり、普段は冷静なヴィンセントが血相を変えて飛んできた。
「た、大変です! 先ほど王宮から連絡があり、『アイリス殿下の冒険者登録手続きを至急進めよ』と指示がありました! 一体何が起きたのですか!?」
騒ぎを聞きつけたガストン本部長も、執務室から転がるように現れる。
「……お前たち。何をどうやったら、王女殿下が冒険者に登録することになるのだ」
頭を抱え、泣きそうな顔で問いかけるガストン。ステラはリィンの手を引きながら、短く、淡々と答えた。
「……成り行きよ」
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昼過ぎ。ヴィンセントたちギルド職員は、王宮からの馬車が到着するのを今か今かと待ちわびていた。
「おかしいですね、一向に馬車が見えません。予定の時刻は過ぎているのですが……」
午後の商業第一区。ギルド本部の前は買い物客や冒険者で溢れかえっている。誰もが、豪華な馬車が人混みをかき分けて現れるはずだと考えていた。
だがその時――雑踏の中から一人の麗人が歩み寄ってきた。
燃えるような紅い髪を一つにまとめ、白銀の軽装鎧を纏い、純白のマントをたなびかせた姿。その圧倒的な気品と美貌に、人々は自然と左右に分かれて道を開ける。
颯爽とギルド本部の前に現れたのは、アイリス本人だった。
「こんにちは! アイリスだ。ここがギルド本部で間違いないかな?」
気さくな調子でヴィンセントに話しかける。
「こ、これはアイリス殿下……! お出迎えもままならず、大変失礼いたしました!」
あまりに自然な登場に、職員たちも慌ててその場に跪いた。
「こんな街中で、畏まった礼は不要。私は『冒険者』の登録に来たのだから」
アイリスはそう言って、弾むような足取りでギルドの重厚な扉を開いた。




