第052話:不遜なる条件
第二王女アイリスの凛とした声が謁見の間に響き渡る。
燃えるような真紅の長髪を揺らし、深い琥珀色の瞳でリィンとステラを射抜くように見据えた。
「実に興味深いものを見せてもらいました」
「お、恐れ入ります……」
リィンが消え入るような声で答える。だが、アイリスの視線は一切揺るがず、リインへと向けられたままだ。
「『七星の神具』は失われたアーティファクト。それが今ここに現れたのであれば、我が国を主要国と肩を並べる地位へと押し上げる一助となるでしょう」
(ガイ――ラルスが話していた、至宝を保有する四つの大国のことね)
ステラは思考を巡らせながら、王女の次の言葉を待った。
「我が国の命運を左右する重大事。王族たる私が関わるのは必然です。陛下、この者たちの旅への同行を、私に許可してください」
最初から話は通っていたのだろう。国王は驚く様子もなく、頷いて言葉を発しようとした――その時。
「恐れながら……」
静かだが、明確な拒絶の意を含んだ声が、それを遮った。
発言したステラに、場にいた全員の視線が集中する。
「同行は極めて危険です。昨日も我々は、未知の武具を有する集団から襲撃を受けました。殿下の安全を保証することは叶いません。再考をお願い申し上げます」
(要するに、足手まといは邪魔なのよ)
内心で毒づきながらも、表情は一切崩さない。
国王はわずかに困ったような表情を浮かべた。
「ふむ……。当人たちがこう申しておる。アイリス、ここは二人に任せてはどうか?」
「案ずる必要はありません。私の精鋭騎士たちを護衛に連れて行きます」
「うーむ……」
引く気配のないアイリス。
議論が長引くことを煩わしく感じたステラは、あえて踏み込んだ。
「……殿下。同行を認めるにあたり、条件がございます」
場の空気が一瞬で張り詰める。
「殿下ご自身に冒険者登録をしていただくこと。そして――同行は殿下お一人に限ります」
「な、なんだと……っ!?」
謁見の間が一気にざわめいた。
「冒険者登録だと!? 王女殿下になんたる無礼を!」
「条件を出すなど、不遜にもほどがある!」
「単独同行だと!? 万一のことがあればどうするつもりだ!」
近侍や騎士たちが一斉に声を荒げる。
だがステラは、一歩も引かなかった。
「その条件が受け入れられないのであれば、この話は辞退させていただきます」
王権すら意に介さぬ態度。
場の空気が凍りつき、誰もが判断をアイリスへ委ねた。
その視線を受け――王女は、ゆっくりと唇を吊り上げた。
「ふふ……面白い」
低く、楽しげな笑み。
「私も武を嗜む身。そなたが、並の者ではないことは理解しています。……そうですわね、騎士団長?」
アイリスの問いに、ステラの隣に控えていた騎士団長は、苦渋を滲ませながら応じる。
「はっ……。隠しきれぬほどの力量をお持ちであることは確かかと。ですが……殿下の護衛を務める騎士たちが納得するかは別問題です」
そう言って、控えていた若き精鋭騎士たちへ視線を向けた。
「ステラ殿。彼らと立ち会っていただきたい。実力なき者に殿下は任せられぬ――その矜持を、力で示してほしい」
「構わないわ。承知した」
即答だった。
「感謝する。――ギルバート、前へ」
「はっ!」
一歩踏み出した騎士ギルバートは、丸太のような腕を持つ筋骨隆々の男だった。剥き出しの敵意を隠すことなく、ステラを睨み据える。
「女相手でも手加減はせん。……後悔するなよ」
次の瞬間。
謁見の間は――静謐な玉座の場から、一瞬にして戦場へと姿を変えた。




