第051話:神具の資格
国王の視線を受け、次席宮廷魔導士カミーユが恭しく一歩前へ進み出た。
「このリィンと申す者は、『七星の神具』を扱う資格を有しております。本人は未だ真なる力の引き出し方を知らぬようですが……伝説の遺物が実在するのであれば、彼女らに収集させ、ひいては我が王国の安泰に資するべきかと愚考いたします」
(……どこまでも自分に都合のいい解釈をする男ね)
ステラは、カミーユとの初対面を思い出していた。彼の野心を警戒し、「リィンは使い道を知らない」という偽の情報を与えておいたのだ。
国王は深く頷き、玉座の肘掛けを指先で軽く叩く。
「うむ……失われたはずの神具か。それを見出したのは、我が国にとっても慶事である。リィンよ、その宝剣を近くで見せてみよ」
リィンが不安げにステラへ視線を送る。ステラが小さく頷くと、彼女は意を決して一歩踏み出した。
「承知いたしました」
虚空へと手を伸ばす。
何もない空間が陽炎のように揺らぎ――その中から一振りの剣が姿を現した。
淡く蒼い光を放ち、刀身には微細な紫電が奔る宝剣――『メルクリウス』。
「し、収納魔法だと……!」
整列する騎士たちから驚愕の声が上がる。報告を受けていた国王でさえ、未知の魔法と神具の威容に思わず息を呑んだ。
「ふむ……。そこの者、それを受け取りこちらへ」
国王が近侍に命じようとした、その瞬間。
「――お待ちください、陛下」
静かに、しかしはっきりとステラが制した。
「この神具は、選ばれし資格なき者が触れれば、身を滅ぼすほどの呪いを受けると伝えられております。軽々しく扱うのは危険かと」
「……馬鹿な。神具と呼ばれる聖なる品に、そのような呪いがあるとは考えにくい」
列の中から、鍛え上げられた体躯の戦士が一歩進み出る。
「陛下。私めに、その“呪い”とやらが真実か、検証するお許しを」
「……うむ、許可する」
国王の命を受け、戦士はリィンの前へ進み出た。高圧的な態度で剣を差し出すよう促す。
ステラは無表情のまま告げた。
「リィン、渡しなさい」
戦士が両手で剣を受け取った――その瞬間。
彼の体勢が、音を立てるように崩れた。
「な、なんだこの剣は……重すぎる……っ!」
同時に、ステラは誰にも気づかれぬよう指先をわずかに動かす。極小の術式が発動し、戦士の手は剣へと吸着した。
「くっ……手が、離れん……! ぐ、あぁぁっ!」
「陛下、ご覧の通りです。資格なき者がこの神具に触れれば、このように呪いに縛られます」
両手でも支えきれず、それでも手放すこともできない。金縛りにあったかのようにもがく戦士の醜態に、場内は騒然となった。
「……もうよい。わかった」
国王が困惑を滲ませながら手を上げる。
「リィン、その剣を収めよ」
「はい」
リィンは苦しむ戦士の手から、軽々と剣を受け取ると、そのまま亜空間へと収納した。
解放された戦士は、その場に崩れ落ちる。
荒い息を吐きながら、彼は恐怖に満ちた眼差しでリィンを見上げていた。
その様子を冷徹な眼差しで見守っていた第二王女アイリスが、ついに口を開いた。
「陛下、発言の許可を」




