第050話:謁見の座
翌日。
指定された時刻の少し前に、二人は王宮の正門へと辿り着いた。
王都ルアスの中央に聳え立つ白亜の城は、街のどこからでもその威容を拝むことができ、迷うことすら許さぬ圧倒的な存在感を放っていた。
「……すごいです、ステラさん」
リィンは足を止め、天を突くような壮麗な建築物を見上げて立ち尽くす。
「さあ、行くわよ」
ステラはリィンの背を優しく促すと、衛兵に召喚状を提示した。衛兵は慎重に内容を確認し、重厚な城門を開いて二人を中へと招き入れた。
城内は外観以上に荘厳だった。人の手で築かれた石造りの城に初めて足を踏み入れたステラは、かつて暮らした天空城の景色を脳裏によぎらせ、ふと懐かしさに目を細める。
まだ会議が長引いているようで、二人は待合室へと通された。前日、ガイとルルから叩き込まれた謁見の作法を、待ち時間の間に念入りに復習する。
やがて侍従から声がかかり、二人は謁見の間へと通された。
贅を尽くした内装は、王室の権威を無言で誇示している。玉座へと続く赤絨毯の脇には、すでに二人の男が立っていた。一人は精悍な騎士。そしてもう一人は、今回の面倒事を持ち込んだ元凶――カミーユだ。
ステラが冷ややかな一瞥を向けるも、カミーユは気づかぬふりでやり過ごした。
部屋の周囲には護衛の騎士たちが整列し、静謐な緊張感が漂う。玉座の前まで進み出た二人は、主の入室を待った。
やがて国王と第二王女の入室が告げられ、一同は一斉に膝を突き、頭を垂れる。ステラが隣のリィンを盗み見ると、彼女は震えるほど緊張しながらも、教わった通りの礼を完璧にこなしていた。
「面を上げよ」
国王の低く通る声が響く。
顔を上げたステラの視界に入ったのは、白髪の混じる穏やかな面持ちの中に、揺るぎない威厳を湛えた国王――そしてその隣に座る、『紅蓮の戦姫』アイリス・ルアス・アズールだった。
噂通り、燃えるような真紅の長髪を凛々しくまとめた彼女は、まるで抜き身の剣のような鋭い眼差しをステラたちへ向けている。
「そなたたちが、リィンとステラか」
「……はい。銀ランク冒険者のリィンです。オニキスの街より参りました。国王陛下におかれましては、ご尊顔を拝し、恐悦至極に存じます」
緊張でわずかに声が上擦りながらも、リィンは教えられた通りの口上を述べ、小さく息を吐いた。国王は満足げに頷き、次にステラへと視線を向ける。
「同じく、銀ランクのステラと申します。ここにいるリィンの『守護者』として同行しております。お見知りおきを」
「……ほう、守護者とな。冒険者はパーティを組み、それぞれの役目を果たすと聞くが、そなたは違うというのか?」
「はい。私が冒険者として登録している唯一の理由は、リィンが目的を果たすその時まで、彼女を護り抜くことにあります」
ステラの迷いのない返答に、国王は興味深げに眉を上げた。
「その者の目的、か」
「……はい。リィンには身寄りがなく、幼い頃の記憶もございません。己のルーツを探るための旅――それが私たちの目的です」
「なるほど。それが……『七星の神具』とも関わる、というわけか」
国王はそう言って、リィンたちの傍らに控えるカミーユへと鋭い視線を投げた。




