第049話:招かざる関心
ヴァンたちとの面会を終えた一行がギルド本部へ戻る頃には、夜はすっかり更けていた。
静まり返った館内で、ただ一人――ガストン本部長だけが執務室に明かりを灯し、彼らを待っていた。
その顔には、隠しきれない疲労の影が色濃く刻まれている。
「……ご苦労だったな」
重々しい口調で労うガストンに対し、リーダーのガイ――ラルスが、救護施設付近での戦闘状況を簡潔に報告した。
「忽然と消えた、か……」
ガストンが低く呟く。
ステラほどの手練れでさえ魔力の痕跡で追えない存在。それがこの世界の常識から外れた“異質な者たち”であることは、もはや疑いようがなかった。
「やはり、彼らの狙いはリィンだったわ」
ステラが静かに告げる。
当初、敵は巨人兵という圧倒的戦力で、ステラたちを排除できると踏んでいたのだろう。
だが予想外の反撃により巨人兵は損壊し、王都へと運び込まれる事態となった。
計画を狂わされた襲撃者たちは、遺物の回収と同時に、精鋭による直接排除へと方針を切り替えた――。
リィンたちを誘き寄せての、上下前後を封じる挟撃。
さらに気配を完全に遮断した死角からの同時襲撃。
ステラの知覚がなければ、リィンの命は今頃どうなっていたか分からない。
「これ以上王都に留まれば、街を戦火に巻き込みかねないわ。一刻も早く祭壇へ向かい、残る『七星の神具』を集めるべきよ。それが、事態を収束させる唯一の道だわ」
ステラの提案は合理的であり、現状で考え得る最善策だった。
だが――
それを聞いたガストンは、苦渋に満ちた表情で視線を机へ落とす。
「……うむ。理屈はその通りだ。だが、少々……面倒なことになってな」
言葉を選ぶように、ゆっくりと口を開く。
「カミーユが独断で、お前たちのことを陛下へ報告したらしい。それだけならまだよかったのだが……その話を聞いた第二王女殿下が、お前たちに強い関心を示されてな」
「あのお方が?」
ガイが思わず声を上げた。
王都ルアスにおいて、第二王女の名を知らぬ者はいない。
才気煥発にして、ひとたび言い出したら決して引かぬ苛烈さで知られる人物だ。
「そうだ。アイリス殿下が、その“祭壇への旅”に自ら同行すると言って聞かんらしい」
カミーユの功名心が、最悪の形で火種となったのだ。
「……それは遠慮したいわね。明らかに“守る対象”が増えるだけでしょう?」
あまりにも率直なステラの物言いに、セレンが思わず吹き出した。
バッカスも肩を揺らし、ガストンは頭を抱える。
その隙に、ステラはラルスへ念話を飛ばした。
【ラルス。その第二王女殿下、どんな人物?】
【名はアイリス・ルアス・アズール。幼少より騎士団に混ざって鍛錬を積み、剣技・魔導ともに王国屈指の才を誇ります。真紅の長髪と苛烈な戦いぶりから、『紅蓮の戦姫』の異名で知られる御方です】
【……面倒そうね】
純粋な護衛任務だったはずの旅に、王族が加わる。
それは単なる危険度の上昇にとどまらない。
「このまま何も聞かなかったことにして、今夜のうちに出発する、というのは?」
ステラが半ば本気で提案する。
だが、ガストンは力なく首を振った。
「……残念だが、それは不可能だ。すでに正式な命令が来ている」
そう言って机に置いたのは、王宮の紋章が刻まれた書状だった。
そこには、明日二人が王城へ参内するよう記されている。
ステラは、深く、長いため息を吐いた。




