第048話:癒しの光
救護施設に到着する頃には、王都はすっかり夜の帳に包まれていた。
通りのあちこちに灯る魔導灯が、暗闇を淡く橙色に染めている。
一行は周囲を厳重に警戒したが、幸いにも道中で再度の襲撃が起こる気配はなかった。
『黄金の牙』の面々と共に施設へ足を踏み入れ、手続きを済ませて案内された病室。
そこには、全身に包帯を巻かれた痛々しい姿のヴァンたちが横たわっていた。
「……元はといえば、私たちが持ち込んだものが原因ですものね。責任を感じるわ」
ステラは静かに呟き、ヴァンの体の上にそっと手をかざした。
次の瞬間――
清冽な白い光が、室内を満たした。
光は負傷者たちの体を優しく包み込み、深い切り傷は瞬く間に塞がっていく。
青白かった顔色にも、みるみる生気が戻っていった。
その光景を目の当たりにしたルルが、息を呑む。
「……う、嘘でしょ? この規模の治癒魔法を、無詠唱で……!? あなた、一体何者なの?」
魔導士として術式の難易度を理解している彼女にとって、それは常識を遥かに逸脱した光景だった。
複数対象への同時治癒、しかも欠損寸前の重傷からの即時回復――神殿の聖女ですら成し得ない領域である。
一方で、事情を知るガイ(ラルス)は、当然の結果だと言わんばかりに静かに主の業を見守っていた。
「……う……あ……」
かすかな呻きと共に、ヴァンがゆっくりと目を開ける。
数秒、天井を見つめた後、状況を整理するように視線を巡らせ――やがてステラを捉えた。
「……助けてくれたみてえだな。感謝する」
「いいのよ。襲撃者は一旦退けたわ。今は安心して休んで」
その言葉に、ヴァンはわずかに苦い表情を浮かべた。
「そうか……。だが、あいつらに全部持っていかれちまった。巨人兵も、俺が書き溜めていた解析データも……関連資料も、全部だ」
吐き出すような声には、技術者としての誇りを抉られたような深い喪失感が滲んでいた。
ステラは彼の傍らに歩み寄り、静かに、しかし力強く言葉を紡ぐ。
「大丈夫よ。形あるものは奪えても、貴方の頭の中にある知識までは奪えないわ」
「……」
「落ち着いたら、また一から書き出せばいい。今度は、防衛も含めて私たちが支えるわ」
一瞬の沈黙の後――
「……はは、違いないな。全くだ」
ヴァンの口元に、わずかな笑みが戻る。
その様子を確認すると、ステラは静かに立ち上がり、窓の外へ視線を向けた。
夜の王都――その奥に潜む闇へ。
癒しの光で傷を塞ぎながらも、彼女の胸中では静かな怒りが燃え続けている。




