第047話:残光の狙撃
日が大きく傾き、王都の街並みが燃えるような夕焼けに染まる頃。
ステラとリィンは、ヴァンたちが収容されている救護施設へと向かっていた。
表向きの目的は「被害者との面会と事情聴取」。
しかし、その実態は敵を誘い出すための大胆な撒き餌である。
人通りがまばらになり、建物の影が長く伸びる路地へ差し掛かった、その時――
空気の質が、一変した。
「……来たわね」
ステラが小さく呟いた瞬間。
正面と背後の屋上から、音もなく黒い影が現れる。
彼らは一切の警告も名乗りもなく、手に握った奇妙な筒状の機工道具をステラたちへ向けた。
直後――
空気を切り裂く高周波音と共に、数条の「熱線」が放たれる。
それは魔法特有の予備動作も、魔力の残滓も伴わない。
純粋な物理エネルギーによる投射。常人であれば認識する間もなく肉体を貫かれていたであろう、超高速の一撃だ。
「リィン、私の後ろへ」
ステラは一歩踏み出し、目にも止まらぬ速さで空を払った。
――パキィン!
硬質な音と共に光の帯が四散する。
ステラは魔法障壁すら使わず、掌に圧縮した魔力を纏わせ、熱線そのものを叩き落としていた。
(魔力反応は……皆無)
暗がりの向こうで、黒い影たちの動揺がわずかに揺らぐ。
だが次の瞬間、背後から殺気。
振り返ったステラの視界に、すでに間合いへ踏み込んだ男の剣が映った。
亜空間から細剣を引き抜き、リィンの喉元を狙う刃を弾き飛ばす。
そのまま袈裟斬りで反撃するが――
(硬い……!)
男の身に纏う特殊装甲が、斬撃を受け止めていた。
「えいっ!」
リィンもまた宝剣『メルクリウス』を顕現させ、横一文字に薙ぎ払う。
蒼き刀身から紫電が迸り、男の身体を撃ち抜く。
雷撃に焼かれた男は低く呻き、陽炎のように揺らぎ――そのまま消失した。
同時に、周囲でも戦闘が激化していた。
屋上ではセレンの矢が空を裂き、ゴードンの大剣が影を叩き潰す。
前方ではルルの風刃が路地を削り、ガイの斧が猛然と襲いかかる。
だが――
追い詰められたはずの黒衣の男たちは、示し合わせたかのように一斉に姿を消した。
⸻
一瞬の静寂。
『黄金の牙』の面々がステラたちの元へ集まる。
「大丈夫? 怪我はない?」
ルルがリィンに駆け寄る。
しかしその視線は、彼女の手にある宝剣に釘付けになった。
ゴードンもまた、吸い寄せられるようにその剣を見つめる。
「……おい、それは……」
堪えきれず、ゴードンが口を開いた。
「す、少し、見せてくれないか」
「えっ、はい……」
リィンが差し出した剣を受け取った、その瞬間――
「――っ!? ぐ、あああッ!」
ゴードンの腕が、地面へと引きずり込まれる。
演技ではない。
まるで見えない重力に押し潰されるかのような挙動だった。
「な、なんだこの重さは……!?」
両手で支え、全身の筋肉を総動員してようやく耐える。
「片手で持てる代物じゃねえぞ……!」
「そ、そうですか……?」
リィンは首を傾げながら剣を受け取ると、軽々と片手で持ち上げる。
そのまま自然な動作で収納魔法を発動し、『メルクリウス』を亜空間へ収めた。
ゴードンは絶句する。
「お前……とんでもねえな……」
「収納魔法……」
ルルの声にも驚愕が滲む。
この重量物を難なく扱う魔力量と制御力は、銀ランクの域を明らかに超えていた。
戸惑うリィンの隣で、ステラは静かに微笑み、ガイへ視線を向ける。
「とりあえず、邪魔者は排除できたようね。予定通り、ヴァンさんの見舞いへ向かいましょう」
ガイは一度咳払いをし、場の空気を引き締める。
「……ああ。このまま全員で行く。これ以上、奴らに好き勝手はさせねえ」
一行は再び歩き出す。
だが――
『黄金の牙』の面々がリィンへ向ける視線は、先ほどまでとは明らかに変わっていた。




