第046話:囮の覚悟
ガストンが呼び出しの鈴を鳴らしてから数分後。本部長室の重厚な扉が叩かれ、四人の精鋭たちが姿を現した。
彼らはソファに並んで座るステラとリィンを見るなり、意外そうに目を見開いた。
「あらあら、先客かしら? 私たち、お邪魔だったかしらね」
魔導士のルルがいたずらっぽく微笑み、新緑の瞳を細める。だが、ガストンの表情は一切緩まなかった。
「いや、これはお前たち『黄金の牙』とリィン、君たち全員への特別依頼だ」
ガストンの口から語られたのは、巨人兵強奪の内幕と、救護施設を舞台にした「迎撃作戦」の全容だった。それを聞き終えた大剣士ゴードンが、低い声で唸った。
「なるほどなあ。つまり、リィンちゃんたちが囮になるってわけか」
ゴードンは不満げに鼻を鳴らし、ステラを正面から睨み据えた。
「あんた、わかってんのか? 敵の戦力が読めない中、銀ランクの娘を囮にするってことが、どれだけのリスクか」
「ええ、重々承知しているわ。だからこそ、貴方たち金ランクには、私たちのフォローをお願いしたいの」
ステラが淡々と、しかし当然の義務であるかのように告げると、室内の空気が一変した。ゴードンが黄金色の瞳を鋭く細め、椅子から身を乗り出す。
「ほう……。銀ランクの嬢ちゃんが、俺たち金ランクに指示を出すってのかい? 随分と豪胆なことだ」
一触即発の緊張感が場を支配する。リーダーのガイは、冷や汗を拭いながら慌てて二人の間に割って入った。
「ま、待てゴードン! ステラも悪気があるわけじゃないと思うぞ。……とにかく、本部長の指示だ。俺たち四人はそれぞれ救護施設の死角を埋めるように持ち場につくぞ。いいな!」
ガイの必死の取りなしに、他の三人は納得のいかないような眼差しをステラとリィンに向けたが、それ以上は何も言わず、踵を返して本部長室を出て行った。
扉が閉まった直後、ステラの脳内にラルスからの焦燥を含んだ念話が届く。
【ステラ様、仲間たちの無礼、どうかご容赦ください。彼らはまだ貴方様のお力を知らぬゆえ……】
【気にしなくていいわ、ラルス。それよりも、ゴードンの言う通り襲撃者は油断できない相手よ。貴方たちの実力は信頼しているけれど、万全の体制でリィンの背後を固めて。いいわね?】
【はっ。この命に代えましても、御身とリィン様をお守りいたします】
ラルスの決意に満ちた声を背中で受け流しながら、ステラはリィンの小さな手を握り直した。
「リィン、怖くない?」
「……はい。ステラさんがいて、ガイさんたちもいてくれるなら、私、頑張れます」
リィンの瞳には、恐怖を越えた静かな決意が宿っていた。
救護施設という名の檻。そこへ誘い出されるのは、果たしてステラたちか、それとも闇に潜む襲撃者か。
王都の夜が、静かに幕を開けようとしていた。




