第045話:守護者の決意
ステラは、慌ただしく立ち働くヴィンセントを見つけると、ガストン本部長への面会を依頼した。
「本部長は現在、ギルド本部襲撃に関して各方面へ魔法通信で状況確認をされている最中ですが……ステラさんたちの依頼なら、最優先で繋ぎます」
ヴィンセントの顔にも、隠しきれない疲労の色が滲んでいた。
「すまないわね」
二人は受付横のベンチに腰掛け、混乱の渦中にあるギルド職員たちの様子を見守った。リィンも、緊張で強張った顔をして周囲を見つめている。
しばらくして、ヴィンセントに導かれ二人は本部長室へと入った。
「待たせたな、二人とも」
机に広げられた膨大な報告書から顔を上げたガストンの声は、心なしか掠れている。
「忙しいところ、時間をとってくれて感謝するわ」
ステラは短く謝辞を述べ、本題に入った。
「まずは、ヴァンさんたちの容態を聞かせて」
「ああ。六人とも酷い怪我だが、幸い命に別状はない。今は厳重な警備の下、救護施設にて治療を受けている」
その言葉にリィンが安堵の息を漏らす。だが、ステラの表情は依然として険しい。
「それはよかったわ……。それで、襲撃者の人数や外見、当時の状況はどこまで把握しているの?」
「……それが、当事者たちの意識も朦朧としていてな。かろうじて聞き出せたのは、相手は三人組だったということだけだ。短時間で重量のある巨人兵を運び出したことも信じがたいが、痕跡すら一切残していない。……手際の良さからして、相当な手練れなのは間違いないだろう」
ガストンが唸るように言う。ステラはその言葉を肯定するように、静かに問いかけた。
「魔力の痕跡すら残さないほどの手際を持つ者が、あえて六人を瀕死の状態で生かしておいた……。ガストン本部長、その理由をどのように考える?」
ガストンがハッとしたように顔を上げた。ステラの射抜くような視線を受け、彼はその答えに辿り着く。
「……我々を誘い出す『罠』、と見るか」
「おそらくは。治療を受けている六人に、私やリィンが面会に訪れる時を狙っているのか、あるいは彼らの警護にギルドの戦力を釘付けにするための楔でしょうね」
「奴らの狙いは、巨人兵だけではないというのか?」
ガストンの問いに、ステラは迷いなく答えた。
「ええ。彼らの目的にはリィンも含まれている。私たちは、どうやら王都に入る前から行動を監視されていたみたいね」
(情けないことに――)
自嘲気味な独白が、ステラの心に去来する。
ガストンの視線が、ステラの隣で身を強張らせるリィンへと向けられた。
「……そうだな。確かに、失われた『七星の神具』を持つ者。帝国にせよ、王国の暗部へと根を張る勢力にせよ、手に入れたい最高級の駒、というわけか」
「駒、ではないわ」
ステラが遮るように言い放った。その声には、室内の温度を数度下げるほどの鋭い冷気が宿っている。
「リィンの保護者として、奴らの思惑はすべて排除する」
ステラは鋭い視線を窓の外、まだ見ぬ敵が潜む闇へと向けた。
「ガストン本部長、私たちはこれから救護施設に向かうわ。何もなければ、そのままヴァンさんに会って、私の魔法で治療し、仔細を確認する。……でも、そうならなかった場合」
ステラはリィンの手を強く握る。
「迎撃の許可を。おそらく、彼らは魔力を使わない未知の技術を使用してくる。私もそれなりに対応しなければならなくなるでしょう。リィンも巻き込まれて戦闘になる可能性があるわ」
ガストンは重い沈黙の後、しばらく考え込んだ。
「……救護施設が戦場になるのは非常に不味いが、ちょうど『黄金の牙』がここにいる。彼らが同行するなら、施設全体の防衛も可能だろう」
「ええ、そうしてもらえると助かるわ」
「ふむ。今回の件は、王都ギルドの管理不足に由来するものだ。改めて、リィンと、その守護者であるステラ。そして『黄金の牙』に、『特別防衛依頼』を出すことにしよう」
ステラはそれを聞いて、力強く頷いた。




