第044話:消失した遺物
ガイは周囲の安全を迅速に確認すると、鋭い声で撤収を命じた。
「引き上げるぞ! 全速力で王都へ戻る!」
「えっ、もう終わり? まだ獲物が残ってるわよ!」
不満げなルルの声を、「王都が危ねえんだよ、急ぐぞ!」とガイが一喝する。
左側面では、まだ別のパーティが戦闘を続けていたが、彼らの実力なら問題ないと判断し、ガイたちは来た道を猛スピードで引き返した。
納得がいかない様子のルルをよそに、数時間の強行軍の末、ついに前方に王都ルアスの城壁が見えてきた。
高くそびえる城門には、いつも通り王国旗がはためいている。
ステラが目を凝らして上空の魔力の流れを確認するが、結界に乱れはない。
(……特段の異常はないわね)
ステラは、わずかに安堵の息を漏らした。
城門をくぐっても、街の様子は普段と変わらない。
行き交う馬車、呼び込みをする商人――王都は相変わらずの活気に満ちていた。
だが、その「いつも通り」の光景こそが、ステラの胸のざわめきを強めていた。
一行がギルド本部へ到着すると、建物の裏手に人だかりができていた。
「何があった!?」
ガイが野次馬をかき分け、最前列にいた職員に問いかける。
「襲撃だ……! ほんのさっき、覆面の集団が現れて、あの巨人兵を奪っていきやがった!」
「なんだと……!? ヴァンたちはどうした!」
「技師たちは抵抗したんだが、あいつら、見たこともない魔導具を使って……。ヴァンさんも含めて、今は救護施設だ。命に別状はないが、深い傷を負っている」
ステラとリィンは、こじ開けられた倉庫の中へと足を踏み入れた。
そこには、あれほど圧倒的な存在感を放っていた巨人兵の残骸は跡形もなく、ヴァンが心血を注いでいた解析データや関連書類も、すべて持ち去られていた。
「夜間なら警報装置が作動していたんだが、日中は解除されている……そこを狙いやがった」
悔しそうに拳を壁に叩きつけるギルド職員の声が響く。
冒険者たちの主力のほとんどは、エルドの大平原へ出払っていた。
警備が最も薄くなり、防衛機構も無効化される「日中」という空白の時間。
(……完璧な陽動ね)
ステラは、冷たくなった床を見つめた。
バイソンをけしかけて戦力を外へ釣り出し、その隙に本命を奪う。
「ステラさん……ヴァンさんたちが……」
リィンが震える声でステラの服を掴む。
(私たちの不在を確信して動いた……ということか)
相手は、自分たちの動きを完全に把握していた。
ステラは職員と話すガイの方へ視線を向け、念話を飛ばす。
【ラルス、襲撃者の痕跡は追える?】
【……申し訳ありません。これほど鮮やかに消されているとは。魔力の残滓すら感じられません】
【やはり……。天龍である私たちの検知を妨げるほどの手練れ、あるいは未知の技術ね。そして、ヴァンたちの口封じは容易だったはず。それでも生かした理由は……?】
【……罠、というわけですか】
ガイ――もといラルスは念話で応じながら、セレンと共に現場の検証を続けている。
ステラは動揺するリィンの肩を抱き寄せ、静かに言葉を紡いだ。
【私たちの行動は常に監視されていた。不用意にヴァンのもとへ向かうのは危険ね。
彼自身が『撒き餌』にされている可能性があるわ】
【ステラ様の検知をかいくぐる者が、この地上に……】
【私たちは、未知の存在と対峙しているのよ】
そう告げて、ステラはリィンの顔を見つめた。
不安げに揺れる瞳を、優しく撫でる。
(この子が現れてから、すべてが動き出している……。
彼らの真の狙いは――巨人兵ではなく、この子)
確信に近い予感を抱き、ステラは決然と顔を上げた。
ガストンへの緊急面会を求めるために。




