第039話:金ランクの戦士
受け取ったばかりの多額の報奨金を手に、リィンとステラはギルド近くの活気ある宿に部屋を取った。
そのまま夕食を求め、隣接する酒場へと足を運ぶ。
酒場は、一日の狩りを終えた冒険者たちの熱気と、肉の焼ける香ばしい匂いに満ちていた。
その喧騒の中心に、ひときわ目立つ四人組がいる。
周囲の冒険者たちが代わる代わる挨拶に訪れている様子から、かなりの有名パーティであることは疑いようもなかった。
やがて挨拶の列が途切れた頃、その中の一人が立ち上がり、迷いのない足取りでステラたちのテーブルへと向かってくる。
現れたのは、磨き抜かれた武具を纏い、全身から強者の気配を放つ金髪の戦士だった。
「よう、あんたたちが噂の二人かい?」
屈託のない笑みを浮かべ、戦士は二人の前に立つ。
「俺はガイ。金ランクパーティ『黄金の牙』のリーダーをやってる。……隣、座ってもいいか?」
ステラはエールを一口煽り、気取らない様子で答えた。
「ええ、空いているわ。どうぞ」
「感謝するよ。……で、王都ルアスの居心地はどうだい? 地方から来たって聞いたが、驚いただろう」
「はい。とても賑やかで、建物の大きさに圧倒されました」
リィンが素直に答えると、ガイは「ははは、そうだろうな!」と愉快そうに笑い、他愛のない世間話を続けた。
一見すれば、有望な後輩に興味を持った先輩冒険者の、微笑ましい光景だ。
――だが、その最中。
ステラの脳裏にのみ、澄んだ声が直接響いた。
【ステラ様。ようこそルアスへ。お待ちしておりました】
ステラは眉一つ動かさず、手元のグラスを見つめる。
【あら……この気配、ラルスかしら?】
【左様です。よくぞ、私だとお気づきに】
ガイ――もとい天龍の一族であるラルスは、リィンと楽しげに談笑する仮面を保ったまま、主へと報告を始めた。
ステラもまた、天龍族特有の並行思考を駆使し、リィンとの会話とラルスとの念話を同時にこなしていく。
【しばらく見ないと思っていたら、こんなところで冒険者ごっこ? ずるいわね】
【恐縮です。陛下より、王国へ先行してステラ様の支援にあたれとの命を受け、露払いをしておりました】
【そう。お父様が……】
【私以外にも同胞たちが各地に潜入し、情報を集めております。アズール王国の内政や王宮の動向であれば、いつでもお役に立てるでしょう】
【心強いわ。活用させてもらうわね】
ステラは念話を通じて、書庫で知った事実――
リィンが超古代文明の末裔であり、時の河を渡ってきた存在であること、そして「七星の神具」の宿命についてを伝えた。
【……左様でございましたか。であれば、陛下が事前に我らを放たれた意味がようやく理解できました】
ラルスは笑顔の裏で、守るべき存在の重要性に戦慄していた。
「――おっと、仲間が呼んでるな。悪い、ゆっくりしてくれよ。何か困ったことがあったら、いつでも俺たち『黄金の牙』を頼ってくれ!」
ガイは爽やかに立ち上がり、リィンの頭を軽く撫でる仕草をして自分の席へと戻っていく。
その様子に、周囲の視線がさらに強まった。
「あいつら、何者だ?」「例の巨人兵を運んできた連中らしいぞ」
囁きが、波のように酒場に広がっていく。
「面白い人でしたね、ステラさん」
「ええ、そうね。少し……お節介なところもあるけれど」
ステラは微笑み、再びエールを口にした。
見知らぬ王都。動き出した帝国。
だが――自分が決して孤立無援ではないと知り、ステラの心にはわずかな余裕が生まれていた




