表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の守護者 〜地上に降り立った最強の龍皇女は、神具に選ばれた少女を守り抜く〜  作者: 森人
第一章 王都編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/77

第037話:残像

ガストン本部長自らの案内で、リィンとステラはギルド本部の地下深くへと足を踏み入れた。


幾重もの防護結界と重厚な鉄扉を抜け、最下層へ辿り着く。そこには、精巧な転移陣が床に描かれていた。

ガストンが壁の突起に手をかけ、魔力を注ぎ込む。やがて魔法陣は淡い青の光を放ちながら起動した。


「……この転移陣の先にあるのは、各国のギルドが集めた機密文書や失われた魔道書など、古今東西の書物を集約した書庫だ。世界中の秘匿文書がここに眠っていると言っていい。本部長以上の権限を持つ者と、わしが直々に許可した者しか立ち入れん場所だ」


三人が転移陣に乗ると、視界が純白の光に包まれる。

光が収まった先には、重厚な木製の扉が静かに佇んでいた。

ガストンがその扉を押し開く。


そこに広がっていたのは、魔導ランプの淡い光に照らされた広大な『禁忌書庫』だった。

空気は極限まで乾燥しており、積み重なった古い羊皮紙の匂いが満ちている。

ここは、世界中の公にできぬ歴史や、正体不明の遺物を封印してきた、文字通りの『深淵』であった。


ガストンは入口で足を止め、二人を中へと促す。


「わしは一旦ギルドへ戻る。用が済んだら、このベルを鳴らせ。転移陣を繋ぎに戻る」


そう言って、ガストンはリィンに小さな金の鈴を手渡した。

彼が再び転移陣に乗り、完全に姿を消したのを確認してから、ステラは高々とそびえ立つ書棚へ視線を巡らせた。

並ぶ古文書の数々は、触れれば灰と化しそうなほど脆く色褪せている。


だが――リィンの足取りに迷いはなかった。

まるで血に刻まれた記憶に導かれるように、彼女は一つの棚の前でぴたりと足を止める。


「……これ」


リィンが手に取ったのは、表題すら刻まれていない漆黒の書物だった。

光すら吸い込むような、不気味な装丁を施された一冊。


ステラが横から覗き込み、眉をわずかに歪めた。


「……文字じゃないわね。これは純粋な魔力によって記録された『ログ』よ」


リィンがそっと表紙へ手をかざす。

次の瞬間、ページから溢れ出した淡い銀光が奔流となり、空間そのものを塗り替えていった。


浮かび上がったのは、現在いまとはまったく異なる世界の光景。


天を突くようにそびえ立つ白光の塔群。

網の目のように張り巡らされた滑らかな銀の軌道。

その上を、意思を持つかのように滑る鉄の塊。

空には、幾筋もの尾を引きながら飛び交う金属の鳥の群れ。


――魔法ではない。

極限まで洗練された『未知の技術』が支配する、超高度文明の姿だった。


だが、その圧倒的な繁栄は、一瞬にして崩壊へと転じる。

突如として空が裂け、巨大な『扉』が現れた。

そこから溢れ出したのは、無機質な殺意を孕んだ漆黒の波。

天を仰ぐほど巨大な巨人兵。

異形のシルエットを持つ鋼鉄の機体。

飢えた獣のように地を埋め尽くす鉄の群れ。

凄惨な蹂躙が始まった。

光線が瞬く間に都市を焼き払い、栄華を誇った銀の道は跡形もなく砕け散っていく。


映像が目まぐるしく切り替わる。

崩壊する世界の只中に佇む、白亜の祭壇。

血を吐きながら、凄まじい速度で複雑な演算紋章を展開する賢者たちの姿があった。

彼らは己の命を賭して、次元の扉を閉じようとしている。


その中央――。

一人の蒼い髪の少女が、銀色の繭に包まれていた。

少女は深い眠りについたまま、やがて開かれた時空の裂け目へと放たれていく。


「……え……これ、私……?」


震える声が、リィンの唇から漏れた。

やがて、記録の終端に重々しい言葉が浮かび上がる。


『七星の器、時の河を渡りて再臨せん。

 均衡崩れし時、銀の翼を纏いて門を閉ざさん』


どれほどの時間が経ったのだろうか。

数十分か、あるいは数時間か。

映し出されていた超古代の映像が幻影のように消え去り、後に訪れたのは、耳が痛くなるほどの静寂だった。


「リィン……あなた、数千年の時を越えて、この時代へやって来たの?」


ステラの静かな問いに、リィンは言葉を返せない。

映像は完全に霧散し、手元にあった漆黒の書もまた、光の粒子となって虚空へ消え去った。

再び、書庫は沈黙に包まれる。

リィンは、震える自らの掌を見つめた。


そこに流れる血の重みを、本当の意味で理解するかのように。


――均衡崩れし時。

南の帝国はすでに不穏な動きを見せている。

世界を支える力は、確実に軋み始めていた。


「ステラさん……私、どうすればいいの?」


絞り出すような、儚い声。

ステラは静かに、だが決して揺るがない力強さで、リィンの華奢な肩を抱き寄せた。


「もう止まれないわ。リィン、あなたは明確な使命を持って、この地に立っているのよ」


ステラの金色の瞳が、少女の心に宿る迷いを焼き払うように鋭く輝く。


「迷う必要なんてない。自分にできることを、ただ全力でやりなさい」


一拍。


「――何があろうと、最後まで私があなたを導く」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ