第036話:七星の紋章
ガストンは、リィンが手にする宝剣を呆然と見つめていた。
だが、その視線がある一点で縫い止められたかのように、突如として鋭さを帯びる。
「……待て。その柄にある意匠は……まさか、『七星』の紋章か?」
「えっ……?」
リィンが言われるがまま手元の柄を覗き込むと、そこには中央の円を囲むように六つの円が整然と並ぶ、古めかしくも精緻な紋章が刻まれていた。
「本当ね……。言われるまで、私も細部の意匠までは意識が回っていなかったわ」
隣にいたステラが、細い指先を顎に添えながら呟く。
あまりにも凄まじい魔力の奔流に目を奪われ、刻まれた細かな紋様にまで意識が及んでいなかったのだ。
「七星が……伝説ではなく、本当に実在したというのか……」
ガストンは震える手で顔を覆い、深く息を吐いた。
その表情には、歴史の裏に隠された禁忌へ触れてしまったかのような、隠しきれない動揺が浮かんでいる。
「いいか。現在の魔法体系は、『火・水・土・木・金』の五行――つまり、世界を循環させる五つの力によって成り立っている。これらは世界の均衡を保つ礎であり、現在は各大陸の主要勢力が、それぞれの属性を宿した国宝級の魔導具を伝承している」
ガストンは重々しく言葉を継ぐ。
「火は南の軍事国家『バルカ帝国』。水は西の島嶼連合国家『リイヴィエラ』。金は堅牢な地下都市を築くドワーフ族。そして木は深き森に住まうエルフ族が、それぞれの属性と土地を守護しているとされている。……だがな」
ガストンの眼光が、射抜くような鋭さを帯びた。
「古の文献には、これら地上の五つの法則に、星と時空を司る『日・月』を加えた、七つの星の力――『七星』の文明が存在したと記されている。その『メルクリウス』が、もし七星の神具の一つだとするならば……それは、現在の主要種族が有する国宝すべてを合わせた以上の、『星の権能を司る力』を内包していることになる」
「星の権能を司る、力……」
リィンは、自身の手に驚くほど馴染む宝剣を見つめ直した。
蒼き雷を纏うその剣は、もはやただの武器などではない。
世界の成り立ちそのものを揺るがす、大いなる鍵なのかもしれない。
「バルカ帝国、リイヴィエラ、ドワーフ、エルフ……。世界中の勢力が、その属性を根幹に据えているのね」
ステラは静かにその名を反芻する。
南の帝国が軍事行動を開始したという不穏な情報と、リィンの手に渡った『七星』の神具。
それらが無関係であるとは、到底思えなかった。
ガストンは椅子に深く座り直し、覚悟を決めたような表情で二人を見据えた。
「地下書庫への入室を許可しよう。……いや、許可せざるを得ん。この剣の正体を知ることは、もはやお前たちだけの問題ではない。この国の――いや、この世界の存亡に関わる重大事と言えるかもしれぬ」




