第035話:神具の提示
ガストン・アイアンサイドは、「保護者」という言葉を反芻するように、ゆっくりと目を細めた。
「なるほど、保護者か……。つまり、ギルドとして正式に依頼を出すのであれば、その対象はリィン――お前になるのだな?」
鋭い視線がリィンへと注がれる。
リィンは一瞬、身を強張らせたが、隣に立つステラの静かな存在感に支えられ、真っ直ぐに本部長を見返した。
「ええ、その通りよ」
ステラが淡々と答える。
「そして私には彼女を保護する義務がある。ゆえに、彼女が受ける依頼には、必然的に私も同行することになるわ」
「ふむ……実質的には二人一組というわけか。……関係性は理解した」
ガストンは深く椅子に背を預け、机の上で静かに指を組んだ。
「さて、本題に入ろう。オニキスのバッカスからは、お前たちが特定の目的を持って王都を訪れたと聞いている。……王都ギルドに何を求める?」
ステラは迷いのない声で告げた。
「過去の『神具』に関する情報よ。ギルド本部が管理する地下書庫への入室許可をいただきたい」
「神具……だと?」
ガストンの表情から余裕が消え、かつての冒険者としての野性味を帯びた厳しさが浮かび上がる。
神具――それはお伽話の形を取りながらも、国家の均衡すら揺るがしかねない禁忌の力。
「お前が言う神具がどのようなものかは分からんが、神話の遺物を追っているというわけか……。バッカスの報告書には、祭壇に現れた未知の扉から手にした武器についても記述があった。それが、神具とやらか?」
低く響く声が、室内の空気を引き締める。
「それが単なる名剣なのか、あるいは歴史に埋もれた『神具』そのものなのか。本部長として、その正体を見極める義務がある。……見せてもらえるか?」
リィンはステラの顔を見た。
ステラが小さく頷くのを確認すると、リィンは意を決し、自らの意思で右手を虚空へと伸ばす。
「――来てください、『メルクリウス』」
リィンが虚空にそっと手をかざす。
何もない空間に、水面のような碧い波紋が広がる。
そして彼女が取り出したのは、迸る雷を纏い、神秘的な蒼い輝きを放つ宝剣だった。
「…………ッ!」
ガストンは思わず立ち上がる。
ただの魔導具ではない。
その刃が放つ神威とも呼ぶべき圧力と、周囲の空間そのものを歪めるかのような、圧倒的な魔力の質。
「これが……失われたはずの、神具……」
ガストンは息を呑み、リィンの手にある蒼き刃を凝視した。
それは王都の喧騒を忘れさせるほどの静謐さと、
世界を創り変えかねない破滅的な力を――同時に内包していた。
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