第034話:本部長の眼差し
ステラの冷ややかな問いかけに、ヴィンセントはようやく我に返ったように頷いた。
「……失礼した。あまりのことに、言葉を失っていた」
彼はヴァンに後の解析を任せると、『蒼穹の風』の面々とステラ、リィンをギルド本館へと促す。
「顧問。解析の結果は、後ほど書面で報告をお願いします」
「わかっている。……ああ、これほどの謎を前にして、眠れるはずもないがな」
背後で巨人兵へと吸い寄せられるように戻っていく老人を余所に、一行は重厚な石造りの廊下を進み、上階の会議室へと案内された。
会議室の長机には、あらかじめ用意されていたと思しき数枚の書状と、ずっしりと重い革袋が置かれている。
「改めて、今回の重要物資搬送に感謝する。それから、道中で捕縛された野盗団についても、駐屯所からの報告と身柄照会が完了した」
ヴィンセントは事務的な口調で続けた。
「彼らは余罪も多く、その罪状から奴隷落ちが決定した。北部の魔石鉱での終身労働に就くことになるだろう」
ステラは興味なさげに鼻で笑う。
「そう。害虫にはお似合いの末路ね」
手渡された報奨金は、当初の依頼料を大幅に上回る額だった。役目を終えた『蒼穹の風』の面々は、満足げに、そしてステラたちへ深い敬意を込めた会釈をして退出していく。
リィンたちもそれに続こうとしたが、ヴィンセントの手が制止するように上がった。
「お二人はこちらへ。本部長がお会いしたいとのことだ」
通された最上階の執務室。扉が開くと、そこには黄昏の陽光を背に受け、山のような巨躯を揺らしながら書類に目を通す中年の男がいた。
アズール王国ギルド本部長、ガストン・アイアンサイド。
かつては王国の英雄と謳われた「金ランク」の元冒険者であり、座っているだけで周囲の空気が重く沈むほどの威圧感を放っている。
「……オニキスのバッカスから話は聞いている。あの偏屈な男が、これほど他者を称賛する報告書を寄越すのは久方ぶりだ」
ガストンは顔を上げ、鋭い眼光を二人へ向けた。その視線には、組織の長としての警戒心と、一人の強者としての隠しきれない好奇心が入り混じっている。
「未知の巨人兵を一撃で屠り、時空魔法を操る二人組か。……ところで、二人はパーティーを組んでいるのか?」
その問いに、ステラは一歩前に出ると、不遜とも取れる優雅な所作で銀髪をかき上げた。
「いいえ。私はパーティーメンバーではないわ。……ただの、この子の保護者よ」
――保護者。
その言葉が持つ響きに、ガストンは面白そうに口角を上げた。
リィンはステラの隣で緊張に身を固めながらも、その言葉にどこか誇らしさを感じていた。
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