第033話:断面
ヴァン・クロムウェルは、両断された巨人兵の断面にそっと指を滑らせた。
そこには、荒々しい破壊の痕跡など微塵もなかった。鏡面のように滑らかで、寸分の狂いもない一直線の切断面。鋼鉄を遥かに凌ぐ硬度を持つはずの外殻が、まるで熟した果実でも断つかのように、鮮やかに切り裂かれている。
「……信じられん。これほど強固な未知の合金を、摩擦熱すら残さず一撃で断つなど……。一体、誰がこれを成したのだ?」
ヴァンの問いに、背後に控えていたディランたち『蒼穹の風』の面々が、自然とステラの方へ視線を向けた。
「……ステラさんが。オニキスの門前で、一撃で葬りました」
「彼女が……? 冗談だろう」
ヴァンは思わず眼鏡を押し上げ、ステラを凝視する。
そこに立っているのは、細身で銀髪の、軽装を纏った美女だ。戦士というより、その佇まいは高位の魔導士に近い印象を与える。
「どんな武器を使えば、これほど鮮やかに切れるというのだ。その武器を、私にも見せてもらえないか?」
ヴァンはステラの腰元や手元へと視線を走らせたが、剣帯すら見当たらない。
「武器は……? どこかに置いてきたのか?」
その素朴な疑問に、ステラは困ったように眉を下げ、隣のリィンと視線を交わした。
「別に、特別なものではないけれど……」
観念したように、ステラは何もない空間へしなやかな指先を伸ばした。
次の瞬間、空気が水面のように揺らぎ、そこから一振りの細剣が音もなく姿を現す。
「なっ……!?」
「…………」
倉庫内に、凍りついたような沈黙が流れた。
常に冷静だったヴィンセントは目を見開き、解析を行っていたギルド員たちは手にしていた計測器を取り落とす。
「し、収納魔法だと……!? それも、これほど無造作に……」
ヴァンは巨人兵の断面から手を離し、ステラの手にある剣ではなく、彼女の指先が触れた「空間の歪み」を食い入るように見つめた。
国宝級の魔導具ならいざ知らず、一介の冒険者が、事もなげに亜空間から得物を取り出したのだ。その技術的価値は、目の前の巨人兵にも匹敵する。
「ステラさん……あなたも、当たり前のように収納魔法を使えるんですね」
ディランが呆然と呟く。リィンが収納魔法を見せた際も度肝を抜かれたが、その保護者であるステラは、さらに洗練された所作でそれをやってのけた。
自分たちがどれほど“規格外”な存在と旅をしてきたのかを、彼らは改めて痛感する。
「時空を直接操作するなど、王立研究所の最深部でしか扱われていない秘術のはずだ。それを、野の冒険者が個人で行使するなど……」
ヴァンは震える声で呟き、ステラという存在そのものが、巨人兵以上の「未知」であることに戦慄した。
「これよ」
ステラが剣をヴァンへと差し出す。
それは龍族の魔力が込められた業物であったが、ヴァンたちは収納魔法の衝撃に意識を奪われ、剣そのものの価値を正しく鑑定する余裕すら失っていた。
やがてステラは、何事もなかったかのように細剣を再び虚空へと還すと、冷ややかな視線をヴィンセントへ向けた。
「依頼の品は届けたわ。そろそろ、私たちは失礼してもいいかしら?」
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