第032話:未知との遭遇
王都の心臓部、第一商業区。
立ち並ぶ高級店や商館の合間に、ひときわ重厚な石造りの建築物が姿を現した。アズール王国全土の冒険者を束ねる総本山、ギルド本部である。
馬車がギルドへ近づくにつれ、周囲を歩く者たちの風貌が変わっていく。使い込まれた防具を纏い、鋭い眼光を放つ熟練の冒険者たち。
彼らは、リィンたちが運ぶ幌馬車の「異様な重み」を敏感に察知し、訝しげな視線を荷台へと向けていた。
「……あいつら、何を運んでやがるんだ?」
「鉄ランクのパーティに、銀ランクの女か。だが、あの荷台から漏れ出ている不気味な気配は何だ?」
ディランたちの胸元で揺れる鉄のプレートと、ステラの銀の輝きを見比べながら、冒険者たちが囁き合う。
そのざわめきを切り裂くように、ギルドの正面玄関から一人の男が進み出てきた。
「衛兵から連絡を受けている。『蒼穹の風』、そしてステラとリィンだな」
男は事務主任のヴィンセントと名乗った。隙のない身のこなしと、感情を削ぎ落としたような冷静な口調。
彼は軽く一行に会釈すると、鋭い観察眼で一瞬にして全員の力量を見極め、そのまま馬車の側面へと回り込む。
「話は聞いている。……こちらへ。専用の倉庫に案内する」
ヴィンセントの先導で、馬車は一般の受付を通らず、高い石壁に囲まれたギルド裏手の重機材搬入口へと滑り込んだ。
堅牢な鉄扉が開くと、そこには魔導ランプに照らされた広大な地下倉庫が広がっていた。
内部には複雑な計測器や工具を手にしたギルド員たち、そして中央に一人の老人が立っている。
「……ようやくか。待ちわびたぞ、ヴィンセント」
白髪を無造作に束ね、レンズの厚い眼鏡越しに鋭い光を放つ老人――ギルド技術顧問、ヴァン・クロムウェル。王立研究所にも席を置く、魔導工学の権威である。
「さあ諸君、慎重に下ろしてくれ。一撫でたりとも傷をつけるなよ」
ヴァンの指示のもと、クレーンと魔導具を駆使して、ついに巨人兵が荷台から降ろされた。
ゴトッ、と重厚な金属音が倉庫の奥底にまで響き渡る。
横たわる巨人兵。帆布が取り払われ、その無機質な漆黒の外殻が露わになると、周囲のギルド員たちから一斉に息を呑む音が漏れた。
ヴァンは震える手で巨人兵の装甲に触れる。
「……信じられん。継ぎ目がまったくない。魔導回路の刻印すら表面に見当たらんとは……。これでは、魔法を伝達する回路そのものが存在しないも同然だ」
眼鏡の奥の瞳が、狂熱を帯びる。
それは長年「理」を解き明かそうとしてきた学者が、未知の深淵に触れた瞬間の表情だった。
「長くこの職に就いてきたが……これほどの『異物』を見るのは初めてだ。これはもはや、この世界の技術体系ですらない」
その呟きは、倉庫の冷たい空気に重く沈んでいった。
ステラはその様子を背後から静かに見守りながら、ヴァンの抱いた驚愕が、これから始まる大きな嵐の序章に過ぎないことを確信していた。




